研究課題/領域番号 |
16K02658
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片山 晶子 東京大学, 教養学部, 特任講師 (10622805)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 複数回インタビュー / テーマ分析 / AILA / AAAL |
研究実績の概要 |
平成28年度は概ね計画通りデータ収集をすることができ、分析の中間報告に相当する研究発表を2つの国際学会で行うことができた。 特に当初難航した米軍基地内もしくは周辺で活動する非典型日本人英語使用者、すなわちで、本研究が対象とする統計的アウトライアー(高卒までの学歴、都市在住ではない、社会経済階層が高くない)を知己を通じ男性2名女性1名合わせて3名紹介してもらうことができた。平成28年11月19日・平成29年2月24日の2回現地で1人約90分ずつのインタビューができた。合わせて研究協力者の活動環境や地域についてのある程度の観察もできた。また平成28年度以前にすでにデータ収集を始めていた、山間部でアジアの宿泊客に英語で応対をしている旅館の女将とのインタビューも、第2回目を平成28年8月4日に、第3回目(最終回)を平成29年2月9日に行った。第3回目は研究対象者の活動環境や地域についての観察も同時に行った。 平成28年度は国際学会での研究発表も順調に行うことができ、その都度分野の権威から貴重なアドバイスやコメントを頂戴した。平成28年9月10日には前の研究(平成24年度科研基盤研究C課題番号16K02658)の中ですでにデータを収集していた非典型英語使用者(地方都市在住の空手指導者)のナラティブと、本年度8月までに収集した上記の旅館の女将のデータについて仮分析を、韓国光州湖南大学で開催されたThe Third AILA East-Asia and 2016 ALAK-GETA Joint International Conferenceにて発表した。また平成29年3月20日には米国オレゴン州ポートランドで行われた米国応用言語学会年次大会(AAAL)で、上記の山間部で旅館を営むの女将のナラティブをaffordanceというエコロジーの思想に基づく概念で分析を試みた研究を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インタビューデータ収集の進捗状況はほぼ当初の計画通りである。平成28年度中に4人、述べ8回の長時間インタビューの録音データを、それぞれの研究協力者が実際に英語を使っている場所かその周辺で収集することができた。日程調整に手間取ることこそあったものの、研究参加者はインタビューに協力的で決定後はほぼ予定した日程の通りにデータを取れた。インタビューと同時に英語使用環境の観察もある程度はできた。 想定外であったのは、諸般の事情から米軍基地関係の研究協力者が1名から3名に増えたことである。しかしながら特にこのグループのデータから予想外の発見が多々あり、将来独立の研究となる可能性が生まれた。当初2回で終える予定だったインタビューもこうした理由からフォローアップ(追加インタビュー)が出てきた。また当事者の生活・職業環境の観察、さらには彼らが言語面も含め強く影響を受けている「B系」と呼ばれるトレンドに関する現地調査もさらに加える必要が出てきた。 なお米軍基地関係の協力者のインタビューは、1回の出張で違うところで働く3人を連続でインタビューしなければならなかったため調整が難しく、ギリギリまで日程が決まらなかった。このため2回目のインタビューは直前まで日程調整をし続けることとなって、今年度に割り当てた科研費でカバーすることができなかった。 データ分析に関しては、できるだけ間をおかず書き起こしをすることを心がけた。録音データの書き起こしについては、色々な手段を検討した結果、第一版はスマートフォンの音声認識機能を使い、研究者自身がデータを聞きながら、言っていることを繰り返して音声認識機能に書きおこさせる、という手段をとることにした。正確さには限界があるが、再度音声を聞きながら修正をすることで、ある程度の質の書き起こしができ、データを複数回聞くことで深いテーマ分析もできるので、効果的であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は当面は、すでに口頭発表が決まっているAILA(Association Internationale de Linguistique Appliquee )の世界大会(平成29年7月23日から7月28日於ブラジル・リオデジャネイロ)に向けて、準備を進める。この発表では、本研究のナラティブ・データ分析の拠り所となる理論に重点を置いて、「言説としてのグローバリゼーション」の外にいる本研究の研究参加者たちの生活世界について論じる予定である。そのために、現在まで取れた合計10本のインタビューの書き起こしの完成とデータ分析を進めるとともに、文献研究を進める予定である。文献としては、主として社会言語学の領域で、新マルクス主義・ポスト構造主義・ポストコロニアリズム・ポスト・モダニズムに基盤をおく出版物を研究する予定である。 また、ここまでのデータのバランスから少し高い年齢層(50代)で今までの参加者と住む地域や職業のタイプが異なる(できれば非自営業・非サービス業)アウトライヤー英語使用者を加えることを検討している。現在知己を通じての研究参加者の探索をしているところである。 夏以降の予定としては、3月にシカゴで行われる米国応用言語学会年次大会 (AAAL)の年次大会の応募に向けて、本研究の中から米軍基地関係の研究参加者に絞った分析の構想準備をする。これに関連して、前項で述べたようにフォローアップのグループインタビューと追加の現地観察を11月頃に予定している。このための準備と交渉を遅くとも9月頃から始める予定である。前年度の経験から研究参加者の予定の変更等に柔軟に対応できるよう、前もって次善の案も考えておくように心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー研究は研究協力者の権利を尊重して、あくまで相手の都合に合わせてデータ収集をする必要があるために、一部のインタビューの日程調整が遅くなり、インタビューはすることができたが、出張申請が間に合わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
追加のインタビューが生じたグループがあり、平成29年度11月頃にインタビューを予定している。そのための旅費に充当する。
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