本研究は前の科研研究である「日本人にとての英語の資本性」から派生した研究である。前研究では、統計的には国民の10%程度しかいない日本人英語使用者の中の典型的英語使用者(都市在住・大卒・高社会経済階層男性40代女性30代後半)のナラティブ研究を試みたが、本研究では、少数ながら存在するアウトライアー、すなわち地方在住・高卒でそれほど高収入ではない英語使用者を長期間複数回インタビューすることによって。英語使用者となるための経済資本・社会関係資本・文化資本を十分持たないにもかかわらず英語を使うようになった男女4名の生活世界を言語使用を中心に質的に理解することを試みた。 2016年度と2017年度に、知己を通じて募った研究協力者に居住地の本人指定の場所で一人3回の(1名のみ2回)半年程度の間隔を空けて音声録音を伴うインタビューをした。1回のインタビューは1時間から1時間半、テーマは大まかには第1回:現在の生活と英語使用、第2回:英語習得の経緯、第3回:将来の計画と英語習得・英語教育についての意見、と緩く設定し、自由に話をしてもらった。 録音データはすべて研究者自身が書き起こし、ナラティブ研究では一般的なテーマをコーディングしていく方法で分析した。データを収集しながら仮分析、部分的分析をし、本データを理解するにあたって最適な社会理論を模索した。この結果は年間2回のペースで応用言語学および社会言語学の国際学会で発表し、同分野の研究者の批評批判を仰いだ。 最終年度(2018年度)には9月ブダペストで開催された社会言語学会(ICS2)で米軍基地近辺で英語を使用している研究協力者のデータについて発表・3月にはジョージア州アトランタにおける米国応用言語学会(AAAL2019)で女性研究協力者に焦点を当てた「英語は女を救う」言説をテーマにした分析を発表し、執筆に役立つ批評を得ることができた。
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