最終年度である2018年度は,ここまで調査研究してきたデータを改めて見直し,整備を進めた。さらに不足しているデータ,それから特に再確認が必要なデータについては,年度後半におよそ3週間の現地調査をカナダでおこない,収集した。 本課題のテーマである焦点構文を調べるためには,単独の構文の聞き取り調査と同時に,談話の流れの中でどのようにそれが使われるか,どのような情報構造の中でどの情報に焦点をあてるために使われるかを調べる必要があった。そのために,2018年度も現地調査の中で,原語テキストの収集をおこなった。テキストについては,2018年度末に学術誌に投稿したものが一点刊行された。 2018年度は,焦点構文にどのようなイントネーションが施されるかということについても,引き続き調査をおこなった。焦点があたる要素に超分節的なプロミネンスがおかれることが,通言語的に多いと思われるが,スライアモン語ではどうやらそのようなことがなく,あくまで構文の形,すなわち構造で焦点を示すようである。これはスライアモン語が属するセイリッシュ語族のいくつかの言語において最近指摘されたことであり,スライアモン語もそれと同じ様相を見せることが分かってきた。 イントネーションを考える上で,一語内のアクセントの理解は欠かせないと思われるが,スライアモン語についてはそれが十分に解明されていない。その点についても本課題を通して調査を進めてきたが,そのような超分節的要素について調べている中で,対立しないと考えられてきた母音の長短が,特定の環境で対立している(すなわち弁別的である)と見られる現象があることがはっきりしてきた。この点については今後の重要な研究課題である。
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