研究課題/領域番号 |
16K02667
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
井口 靖 三重大学, 教養教育機構, 教授 (90151638)
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研究分担者 |
恒川 元行 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (70197747)
成田 克史 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (40128202)
黒田 廉 富山大学, 人文学部, 教授 (00313578)
カン ミンギョン 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (30510416)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コーパス / コロケーション / 独和辞典 / 基礎語彙 / 頻度 / 多義語 |
研究実績の概要 |
初年度の目標は、今後の研究の出発点として、基礎語彙リストを作成し、 品詞別に10語程度を取り出し、コーパスを用いてコロケーションの試行調査・分析を行うことであった。実績としては4つにまとめられる。 (1)基礎語彙リストの作成と対象語彙の抽出:黒田が「独和辞典・語彙頻度表に基づく基礎語彙リスト」を作成し、ここから分析対象とすべき語を抽出した。なお、この調査に基づいて、頻度により独和辞典を記述する場合生じうる問題について「独和辞典の重要語指定と頻度」(日本独文学会北陸支部『ドイツ語文化圏研究』)にまとめられている。 (2)抽出した語彙を用いての試行調査:黒田は基礎語彙リストから抽出した動詞を中心にコーパスを用いてコロケーションを調査し、独和辞典、独独辞典における例文とも照合した。井口は同様に動詞と名詞、動詞と副詞のコロケーションを調査し、多義語の構造を考察することにより、その辞典記述のあり方についても検討した。その成果は「コーパスに基づく多義語の分析―日本語「読む」とドイツ語lesenを例として―」(『三重大学教養教育機構研究紀要』)にまとめられている。 (3)コーパス研究の問題点:カンは自動タガーに基づいて出力されるDWDS-Wortprofilについて、どの程度信頼できるかを調査した。現時点までの調査ではかなりの信頼が置けることを確認した。恒川は名詞を中心としてコーパスのコロケーションを調査し、結果をコロケーション辞典と照合し、コロケーション調査の問題点を指摘した。 (4)独和辞典記述方法の検討:成田は複数の独和辞典の例文をコーパスで検証し、その問題点を明らかにした。 以上のとおり、初年度としての計画に従って試行的調査を行うとともに、それにとどまらず、コーパス、とくにコロケーションに潜む問題点、独和辞典記述の問題点についても考察することができ、今後の指針とすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標であった基礎語彙リストを作成することができ、これにより、分析対象が明確になった。これに基づき、動詞+名詞、動詞+副詞などのコロケーションの試行分析を行うことができた。また、動詞の目的語を意味的にグループ分けすることにより、多義的な動詞の各意味と目的語の意味グループの意味的関連性や類義語間の違いを試行的に探った。まだ十分な数の分析にまでは至ってはいないが、今後の本格的な分析の足掛かりとなった。 申請書の「何をどこまで明らかにするか」で記載した「類義語の意味分析」については、いくつかの例について類義語のコロケーションの違いはある程度明確にすることができたが、まだ意味の違いを明確にするまでには至らなかった。 「多義関係の分析」については、日本語とドイツ語の「読む」/lesen、「聞く」/hoeren等のコロケーションを調査することによりその多義構造を明確にすることができたが、多義性の構造を一般化するところまで至っていない。 また、「『理想の独和辞典』の記述の検討と提案」については、すでに独和辞典、独独辞典の記述方法のあり方の検討も始めており、「理想の独和辞典」の提案に向けて議論が進んでいる。 よって、初年度としては計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の試行的調査や分析結果に基づき、分析対象を拡大し、本格的調査と分析を行う。 まず、平成28年度作成した基礎語彙リストの中から品詞別に本年度分析する基礎語彙を選び出す。次に、DWDS, DeReKo等の大規模コーパスを用いて調査、分析を行う。井口は副詞+動詞、恒川は名詞(目的語)+動詞、黒田は名詞(目的語)+動詞、副詞+動詞の分析を担当する。カンは引き続きコーパスの自動タガーの信頼性を調査し、それとともにコーパス分析方法の検討を行い、各人の分析の支援を行う。成田は独和辞典、独独辞典の記述方法の比較検討を継続し、それをコーパスと照合することにより、辞典記述方法の妥当性の検討を行う。全体の統括は代表者の井口が行う。 8月にそれまでの成果を持ち寄り、今年度はそれに基づき全員でコロケーションに潜む「意味的関連性」をより深く検討する。動詞+名詞(目的語)のコロケーションにおいては、特定の動詞と結びつく目的語にどのような名詞があるかを調査し、範列的関係にある名詞同士の間にどのような意味の共通性があるかを明確にし、「意味的関連性」をできるだけ多く抽出することを目指す。また、逆に、それら名詞を基礎語にしたコロケーションを調査、分析することにより、範列的関係にある動詞を抽出することにより、動詞の類義語分析を行うことができる。12月、3月にも研究会を開催し、それぞれの分析の進捗状況を確認し、今後の具体的な進め方の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
8月17日、18日に仙台で全員による最初の研究打ち合わせを予定していたが、当日は台風のため交通機関に影響が出て、2名の出席ができなかった。11月5日、6日に福岡で研究報告会を開催したが、都合により2名の出席ができなかった。さらに、3月26日、27日に年度総括のために研究会を開催したが、1名が急病のために出席できなかった。以上のような理由により、予定していた旅費の執行ができなかった。 また、試行調査に基づいて参考文献等の資料を発注する予定であったが、試行調査の結果の検討が年度末までずれこんだために、海外への文献発注が間に合わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
8月、12月、3月に打ち合わせを行い、内容も充実させる。また、全員での研究会だけではなく、個別に専門家の訪問、資料収集などを行う。 28年度に予定していた海外への文献発注をなるべく早いうちに行う。
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