研究課題/領域番号 |
16K02670
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹村 景子 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20252736)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スワヒリ語 / 変種 / 語彙 / 統語 / 形態 / ザンジバル島 / トゥンバトゥ島 |
研究実績の概要 |
平成29年度も前年度に引き続き、ザンジバル島北部県北部A郡においてスワヒリ語変種の記述調査を行った。本調査協力者は昨年度同様にザンジバル島北西に位置するトゥンバトゥ島ゴマニ地区出身者で、ザンジバル島チャアニ村在住者である。 タンザニアにおける調査許可申請のプロセスが非常に厳しくなったため、ザンジバル島においても同様の手続きが要求され、現地入りしてから本調査開始までに相当の時間がかかった。それにより、予定していたチャアニ村近隣村での文法記述調査を断念し、昨年度に終えられなかった「トゥンバトゥ-ゴマニ変種」の文法記述を精力的に行った。「アジア・アフリカ諸言語のための文法調査票」に基づき、「習慣」「完了」「経験」「開始・終了等」「比較等」「格と強調」「提示等」「並列」「動詞の用法」「可能」「希望」「必要・選択」「命令と禁止」「勧誘」「固有名詞」「質問」「複文」「条件文・譲歩文」「時間関係」「重文」「自動・他動と使役」「受身」「数詞等」「修飾語の順序」「場所」「連体修飾節」「身体部分」「天然現象」「引用」の各項目についてデータ収集が完了した。 このうち、「連体修飾節」については、いわゆる英語の関係節に当たる表現において標準語ともチャアニ変種とも異なる文法特徴を示すデータが収集できたことが非常に興味深い。また、語彙の面でも、昨年度に収集した基礎語彙600語ではカバーしきれなかった動詞について、文法記述のための例文で用いられたことによって確認できたものがある。それらの語彙は標準語とは全く異なっており、今後の調査においては特に様々な時制と共起させてさらに詳細を把握する必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度以上に調査許可取得までに時間が取られてしまったが、チャアニ村において継続した「トゥンバトゥ-ゴマニ変種」の文法記述調査は予定よりも順調に進み、残すところ「伝聞、推量、確認、情報提供、予想」「感嘆」「呼びかけ」「敬語」の各項目のみとなっている。20年以上にわたる調査協力者たちとの信頼関係は揺るぎなく、ICレコーダーによって録音を行うことも問題なく承諾してもらっているので、文法記述のための例文だけではなく、日常会話レベルの言語使用についてもデータが蓄積されている。 また、文法記述についてはチャアニ村の近隣村であるキベニ村においてパイロット調査に着手することができ、いわゆる英語のbe動詞表現について、標準語、チャアニ変種、トゥンバトゥ-ゴマニ変種とも異なる特徴が確認された。語彙については、ペンバ島ウェテ市、ペンバ島キワニ地区、およびトゥンバトゥ島キチャンガニ地区出身者にパイロット調査を行うことができた。これらのデータを比較することで、非常に近い村同士であっても使用変種に微妙な差異が存在するのではないかという予測が立てられ、今後の調査で重要視すべき点が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には予定していたキベニ変種とムクヮジュニ変種についての包括的な文法記述調査が行えなかったので、今後はできる限りその調査を優先させる。また、それと並行してトゥンバトゥ-ゴマニ変種の動詞派生について詳細を記述しなければならないと考えている。動詞派生はバントゥ諸語の大きな特徴の1つであると考えられ、「適用」「受動」「使役」「相互」「状態」「可能」「反転」の各派生接辞およびそれらの組み合わせについて、標準語やチャアニ変種との比較をしながら記述していきたい。 また、ザンジバル島東部から南部にかけての村々においても、できる限り基礎語彙収集と文法記述に着手する予定である。最終的な目標である「スワヒリ祖語」の再構築に向けて、とにかくデータ収集を急ぎたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初計画していたザンジバル島北部県北部A郡の数村を回っての調査は、調査許可取得に時間がかかったことにより不可能となった。そのため、人件費・謝金を使用する必要がなくなり、また、新たなAV機器を購入する必要もなくなった。調査期間を延長する、もしくは複数回にわたって調査に出かけることは、学内業務の関係から非常に難しいと言わざるを得ず、次年度使用額が生じた。 (使用計画)平成29年度に行う予定だったチャアニ村近隣諸村での調査に加え、ザンジバル島東部および南部における調査を行うこと、また、国際アフリカ言語学会(World Congress of African Linguistics:WOCAL)の第9回大会がモロッコで開催されるが、そこで本研究成果の一部を学術発表することを予定しており、これらにより外国旅費と謝金の使用が見込まれることから、次年度分と合わせて適切に使用できるはずである。
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