最終年度の主たる活動として、まず秦かおり氏、岡本能里子氏と共編した書籍『メディアとことば5:政治とメディア』に寄稿した論文「原発事故を伝える米紙の和訳記事は「大本営発表」だったか:ウォール・ストリート・ジャーナル日本版における原発事故報道の批判的談話分析」の執筆が挙げられる。これはすでに国際学会で発表した内容を基に加筆したものである。本稿では、原発事故に関する米紙の和訳記事を、比喩、共通認識、引用、削除の点においてその英語原文記事と対照した結果、(1)原文記事が原発事故を戦争に近いものと捉え、身分の不安定な歩兵がその凶暴な存在を必死に制御しようとしていると形容したのに対し、その翻訳記事では原発事故は戦争に近いものではなく、事故がもたらす困難に、無名の人々が地道に対処しているさまを描いていること、また(2)原文記事では事故対応従事者(とその家族)の生々しい声や、彼らが危機に直面していることを伝える一方、翻訳記事ではそれらを伝えるのを控えており、さらに(3)報道が抑制的である点において、当該翻訳記事が広島原爆投下に関する当時の国内新聞記事と類似していることを示した。 次に、2019年6月10日に香港理工大学で開催されたThe 16th International Pragmatics Conferenceにおける発表”The Post-Truth Age Has Come to Japan: Critical Discourse Analysis of the TV Reportage of the Anti-U.S. Base Protesters in Okinawa”が挙げられる。これは、災害報道の研究で用いた批判的談話分析やマルチモード分析を使い、また異なる地域や対象者向けの報道に焦点を当てている点で、本研究の発展と言うべきものである。
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