研究課題
帝政ロシア時代の民族学者ヨヘリソン(Waldemar Johelson)による19世紀末から20世紀初頭にかけてのユカギール語の記録、およびそれに関係する資料の収集を継続した。すでに収集が完了しているヨヘリソンの著作―ユカギール民族誌(1926年刊行)およびユカギール民話テキスト集(1900年刊行)―に基づいて、ユカギール語の記録の電子コーパス化を進めた。これと並行して、これらのユカギール語の記録を資料として、この時期のユカギール語の文法構造を共時的に分析、記述する作業を継続して行った。今年度は本来の最終年度であったため、報告書作成に進む予定であったが、コロナ禍による学内業務の予期せぬ多忙な状況が生じたため、今年度は論文の執筆と出版に集中することとした。その結果、以前から関心を持って研究を続けている単語ponと接語=ben、およびそれらが関係する構文について、現代のコリマ・ユカギール語の記述を深化させるとともに、ヨヘリソンの記述や資料も参照することにより、文法化の視点を取り入れつつ、その通時的な発展について考察を深めた論文を海外の出版社から出版することができた。この他に、ヨヘリソンの記録した民話テキストと現代のコリマ・ユカギール語の資料を対照することにより、ユカギール民話の文体の変化を通時的な視点から検討した論文を学内紀要に投稿した。これは来年度に出版される予定である。来年度までの研究期間延長が認められたため、来年度に研究全体のとりまとめ、可能なら単著の研究書の出版に取り組む予定である。
3: やや遅れている
19世紀末から20世紀初頭にかけてのユカギール語の記録の収集、分析および電子コーパス化は順調に進んでいる。ここまでに引用構文、伝聞法、接語の文法化などの変化について論文を出版し、ユカギール語の統語論的発達の考察に向けたいくつかの分野を開拓してきたが、もう一つの重要な分野である節連鎖構造の発達については、まだ考察が十分に進展していない。そのために研究のとりまとめができていないので、やや遅れていると判断した。
民族学者ヨヘリソンによる19世紀末から20世紀初頭にかけてのユカギール語の記録の収集と、その電子コーパス化を継続する。その資料、および現時点までの研究の成果に基づいて、節連鎖構造の発達についての考察を進展させ、論文を刊行する。高い研究水準に達している英語史、および言語類型論的視点による通時統語論などの理論的成果を検討し、理論的・方法論的観点をさらに深化させる。以上の成果を総合して、最終年度である次年度に本研究計画の研究報告書を刊行する。また将来の単著の研究書刊行に向けた基礎を固める。
研究計画の一部をなす節連鎖構造の検討が遅れており、その研究を進めるための資料等を購入する必要があるため。また、研究全体のとりまとめにも若干の費用が必要であるため。次年度まで研究計画を延長することが認められたので、財政的基盤を整え、資料の確実な入手をはかるなどして、研究の発展につなげる。
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和歌山大学経済学会研究年報
巻: 26 ページ: 41-54