研究課題/領域番号 |
16K02680
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
富平 美波 山口大学, 人文学部, 教授 (00188799)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国語 / 音韻学史 / 門法 |
研究実績の概要 |
清代の乾隆帝の時代に成立した音韻学文献『続通志』「七音略」が本課題の研究対象であるが、この文献は、宋代の編纂で『韻鏡』とならんで等韻学の基本文献として重要視される『通志』「七音略」の続編として編纂されたものである。先立つ『通志』「七音略」に比べて大きく異なる点の一つが、韻図のほかに門法についての解説が加えられていることである。門法は、韻図を用いた反切の解釈のための手引きのような文章で、等韻学と共に発達して中国音韻学の中で一つの分野を形成したが、『続通志』「七音略」が反切・韻図の解釈のために旧来の門法に頼ろうとしていること自体が、時代的な制約の反映であるとともに、同時代の音韻学の潮流に遅れを取っているということでもある。『続通志』「七音略」の門法解説には、門法に対する編者たちの見解や立場が表明されているはずで、それを解明することが本年度の研究の目標であった。 『続通志』「七音略」が掲載する門法は、図解による「門法図」と文章による「門法解」の2つの部分から成っているが、本年度は、「門法図」が、明代に始まったとされる「格子門法」と呼ばれる形式を採用していると考えられるため、趙蔭棠著『等韻源流』などの先行研究を参考にしつつ、明代の『字学元元』のように「格子門法」の図を載せている文献や、清朝初期の『古今釈疑』・『切韻正音経緯図』・『切韻考』等、「出切」・「行韻」・「取字」等の「格子門法」と共通する用語を使用している文献を参照し、「格子門法」が現れてから『続通志』「七音略」に至るまでの流れの一端を垣間見ようと努力した。そして、年度末にその成果をまとめた文章を公開した。 続けて、「門法解」の内容を分析するための準備として、全文の邦訳(第1稿)を作成した。これを踏み台に、『続通志』「七音略」の門法理解の特徴を明らかにしようと試みつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本人の健康状態が不調になったことと、遠隔地に住む親族が入院治療を行ったことにより、研究に費やす時間が減少した。合わせて、研究対象を解釈する上で参照すべき別の資料が新たに見つかり、そちらに関する調査研究・調査結果の発表を先にする必要に迫られた。
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今後の研究の推進方策 |
『続通志』「七音略」の門法について、主に「門法解」の内容を分析し、その特徴を考察して、論文の形にまとめたい。計20条から成る門法と、各門法相互の関連性を詳細に解説しようとしている「門法解」の、他の音韻学文献に比べて特徴的な点は何か、時代的な背景はどのような点に反映されているのか等を、所挙の反切例の特徴とも合わせて、明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に記した理由により、研究遂行が遅延したことが大きい。 使用計画としては、引き続き、研究資料、特に図書や論文の収集費用に充てたい。 2020年度は、予期せぬ社会的事情が生じており、図書館等を訪れての文献調査がむずかしい時期が長引くかもしれないので、旅費よりも物品費や、図書館を通じた文献の取り寄せ・複写が中心になる可能性がある。
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