『続通志』「七音略」の三巻目に収録されている「門法解」の全文を読解し、その叙述からうかがわれる編者等の見解についてまとめ、論文の形で公表した。この「門法解」は、同「七音略」の二巻目に収録されている「門法図」に対して、文章の形式で加えられた解説と位置づけることができる。同「七音略」の掲げる門法は、二十門という数においても、各門の条文の文言においても、おおむね先行の門法文献である『直指玉鑰匙門法』を継承しているが、同「七音略」独自の解釈が、編者による詳細な案語(「臣等謹案」の語で始まる)の中に示されている。 この案語を読み解いた結果、そこに現れた編者の見解には、次のような諸特徴が見られることがわかった。(1)門法が誕生した原因は、音韻の歴史的変化に対応できていない旧来の反切を墨守したことにあると見なす。(2)所与の反切が複数の門法に関連する可能性がある場合があり、相互の区別が従来の門法文献の解説では明らかにし難いので、そのような抵触関係にある門法を逐一掲げ、所与の反切がどちらの門法に属するか、見分け方を解説する必要があるとする(事実、「門法解」はそれに関連する記述にかなりの分量を割いている)。(3)従来の「門法図」(「門法解」では「旧図」と称されている)の改訂を提唱する。但し、同「七音略」二巻目に掲げられた図は敢えて改訂されず、「門法解」の記述においてのみ改訂案が示されている。(4)同「七音略」一巻目に掲載された韻図は『広韻』等の韻書に見える二百六韻の区別を反映する『通志』「七音略」と異なり、十六摂を基準に韻を統合して韻図を作る『切韻指南』の系統のものである。しかし、「門法解」はそのような韻図における韻の統合の実態を明瞭に把握している。(5)門法は反切を読むためのものであり、旧来伝わった反切を読む必要があればこそ、韻図も門法も、祖述を尊ぶ必要があるとする。
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