本研究の主な目的は、明末から清に至る時期の中国の音韻学が、その先端的な部分はひとまず置き、一般的にどのような状況にあったのか、その一端を明らかにすることにあった。研究対象として『続通志』「七音略」を選んだのは、それが清の乾隆帝の勅命によって編纂されたものであり、当時としての穏当な解釈が示されていると想像された故であるが、その実質は、明時期を通じて広く使用された韻図『切韻指南』の改訂版と、同じく明時期に始まった図表化の手法を取り入れた門法解説によって音韻体系と反切法を概説しているというものであった。旧来の反切の読音を求めやすくする点に主眼を置いた音韻学の需要があった事情がうかがわれる。
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