研究課題/領域番号 |
16K02681
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
秋谷 裕幸 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10263964)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国語 / 方言学 / 語源辞典 / びん語 / びん東区方言 / 身体名称 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究計画として「研究計画調書」には、(1)福清、寿寧、屏南方言のチェック調査、(2)『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』の執筆開始、と記した。この計画通りに今年度の計画を進めることができた。(「びん」は「門」+「虫」を表す。) まず「(1)福清、寿寧、屏南方言のチェック調査」について述べる。1年目の調査が順調だったこともあり、この3方言の調査はすべて完成した。3方言とも理想的なインフォーマントに恵まれ、非常に良質なデータを大量に収集することができた。また、追加で仙游方言の調査も行った。 次に「(2)『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』の執筆開始」であるが、執筆を開始し、これまでに「首」「腹」「へそ」「口」「唇」「歯」「舌」「尻」「肛門」の執筆を終えた。また「胎盤」についても要旨を執筆した。このうち「腹」「へそ」「口」「唇」「歯」「舌」に関しては、論文がすでに受理され、出版決定となっている。「首」を論じた論文は目下投稿中である。 今年度の研究で明らかになったことの中で重要な点を2点挙げる。まず第1点としては、浙江省と福建省の境界地域の方言、すなわち泰順、蒼南、寿寧方言の語形が呉語の影響を強く受けていることが挙げられる。「尻」を意味する語の語根“臀”や「歯」を意味する“牙歯”などがその顕著な例である。第2点。2音節の身体名称語は、しばしば“切脚詞”と呼ばれる形態法の影響を受け、様々な不規則的変化を起こしている。例えば屏南方言で「尻」を意味する語はko loungである。第1音節の母音としてはuが期待されるのであるが、実際にはoとなっている。これは“切脚詞”の形態法に則り、第1音節の主母音が第2音節の主母音と同音になったためと考えられる。「腹」を表す語にも同様の現象が観察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究計画は次の2つであった。「(1)福清、寿寧、屏南方言のチェック調査」及び「(2)『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』の執筆開始」である。 まず(1)については、計画にあげた3方言の調査をすべて完成した。3方言とも理想的なインフォーマントに恵まれ、非常に良質なデータを大量に収集することができた。また、追加で仙游方言の調査も行った。 次に(2)についても計画通り執筆を開始し、これまでに「首」「腹」「へそ」「口」「唇」「歯」「舌」「尻」「肛門」の執筆を終えた。また「胎盤」についても要旨を執筆した。このうち「腹」「へそ」「口」「唇」「歯」「舌」に関しては、論文がすでに受理され、出版決定となっている。「首」を論じた論文は目下投稿中である。 以上のように今年度の2つの研究計画について、いずれも計画以上に研究が進展してると判断されるため、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「研究計画調書」には、寿寧、屏南、福清3方言のデータは単独で出版することはせず、『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』の付録とすると記した。しかしながら、この3方言については、理想的なインフォーマントに恵まれ良質かつ大量のデータを収集することができた。そのため単独で出版する。その際には、これまで未発表であった福安方言のデータも含める。書名は『びん東区四方言調査研究』とし、中国で(おそらく福建人民出版社から)出版する。 「研究計画調書」に記した平成30年度の研究計画は(1)福清、寿寧、屏南方言のチェック調査(最終)、(2)『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』の執筆、である。(1)については、平成29年度にすでに完成したので、平成30年度は『びん語びん東区方言詞源詞典(身体部位部分)』と『びん東区四方言調査研究』の執筆をすすめる。前者については、「胎盤」「指」「親指」「小指」「爪」「目」「目玉」「涙」「目やに」「女性生殖器」「男性生殖器」「陰嚢」「睾丸」「精液」などの項を執筆する。これらについては、いずれも国際研究集会や日本中国語学会全国大会、関西支部例会などの機会に口頭発表も行う予定である。各項を執筆するとともに、中国語方言の語源辞典編纂時における諸問題を検討し、最終年度における「関於編纂漢語方言詞源詞典的幾個問題」の執筆に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)が生じたが、その金額は1,000円以下の670円であり、平成30年度に請求した助成金の執行にあたり、研究計画に影響を及ぼすことはあるまいと思われる。
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