研究課題
モンゴル語仏典の多くは,その実相が完全には解明されていない中期語の研究に裨益する格好の資料と見なし得る。研究代表者は,従前あまり研究の手が及んでいなかった仏典を精査し,資料的位置づけを明確にした上で言語の特色を記述し,中期語の性格解明の一端を担ってきたが、本研究はその延長線上に位置づけられるものである。H28年度は、海外及び国内各地に所在するモンゴル語仏典の調査に従事し、所要の資料の入手につとめるとともに、これまで研究代表者が開拓してきたモンゴル語仏典の研究手法を踏襲し、さらに洗練を試みつつ、これまで部分的にしか解明の手が及ばなかった『法華経』のモンゴル語訳の本格的な研究に着手した。最終的に企図している『法華経』校訂済み全文テキストの作成は未完成であるものの、その作成過程で発見できた異本間の微細な言語形式の齟齬が、実は、本テキスト成立の過程を物語るものであることを見出し、さらにそれはモンゴル語仏典の成立過程そのものをうかがい知る好個の資料となり得ることを発見した。その成果をロシア連邦共和国カルムイク共和国で開催された国際会議で報告するとともに、同会議の報告集に投稿した。また、それを踏まえた論文を日本モンゴル学会紀要に投稿している。加えて、当該の形式上の差異は以上の文献学的重要性を有するのみならず、中期モンゴル語時代における周辺諸言語との接触過程を物語る言語学的価値を有しているものと考えられるので、その視点からの論考を試みている。その成果についても今後逐次報告する予定である。
2: おおむね順調に進展している
海外および国内所在の資料調査で、所要の資料を確認、入手して、爾後の研究進捗の成算が高まり、成果報告についても、当初の計画通り進捗しているため。
上述の進捗状況に鑑み、引き続き現在の方向にしたがって研究の推進に励む所存である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Proceedings of the Second International Conference on Mongolic Linguistics held at Kalmyk State University. May, 2016.
巻: 1 ページ: 28-39