研究課題/領域番号 |
16K02684
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
達富 洋二 佐賀大学, 教育学部, 教授 (40367983)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教室談話 / グループ談話 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究実績の概要(申請書における【課題①】)は以下の通りである。 基礎研究として,グループ談話の傾向について,教室談話,音声言語研究,社会言語学,談話分析,応用言語学,談話文法,日本語学,国語科教育の領域から文献研究を行った。研究に使用した図書は新規に購入したものではなく,各図書館等やウエヴサイトの論文検索などを活用した。 実証研究として,談話状況のリアリティを再現するために録画したものからトランスクリプションを作成し,グループ談話の傾向の調査を行った。1.小学校及び中学校での実際のグループ談話を360度カメラで撮影した(グループの机の中央に360度カメラを設置して撮影)2.グループ談話を録画したものをもとにトランスクリプションを作成した(グループ談話は佐賀大学教育学部代用附属小学校および中学校や協力者の授業で撮影した〉。 本年度の実証研究の成果として「グループ談話では何が起こっているか」の傾向として以下のことを明らかにすることができた。(ア)同じ学習者でも参加するグループの談話の様相によっては発揮できる力は異なる。(イ)「理解を深めること」と「談話を連続させる」ことは同じではないが,どちらもグループ談話を進めることには変わりない。(ウ)談話の参加者には聞こえているだろうが,談話の参加者が必ずしも聞き取っているわけではなく,共有されているとは考えられない発話も少なくない。(エ)発話の連続がなくてもグループでのやりとりが成立していることはある。(オ)談話に参加していなくても発話を聞いて取り入れている学習者はいる。(カ)グループ談話では発話は重なることが多い。(キ)グループの談話のペースはそれぞれに異なる。(ク)いわゆる「話し合うこと」だけではなく創造的なグループ談話は他の活動(線を引く,てびきを読む,メモをとる,文を書く)と併存しながら進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.申請書段階からの減額分を計画の修正で対応できたため。詳細は以下の通りである。(ア)新規文献購入を控えた。(イ)動画撮影機器の購人数を減らした。(ウ)クリッカー(リアルタイム型コミュニケーション機器)レスポンスカードを購入しなかった(数量に不足はあったが,前回の科研費で購入したものでまかなった)。(エ)談話記録のデータ化を外部依頼しなかった(自身で作成した)。(オ)調査校を見直した(調査を近隣の小学校や中学校で行うことと,グループ談話研究の先進的な取り組みをしている小学校や中学校を訪問することに変更した)。(カ)教室後方からの撮影のために新規に動画撮影が可能な一眼レフカメラと必要なレンズを購入して対応した。 2.360度全方向カメラによる調査が計画段階での予想を超えるコミュニケーション研究に役立つものであると実感できたため。詳細は以下の通りである。(ア)これまでの学校現場において,グループ談話を促進するために必要な力というのは、学習内容を理解する力やそれぞれの学習者の人がらや性格としてとらえられてきた傾向がある。グループを編成する際には,学習内容を理解している学習者を各グループに配置し,人間関係を考慮することが多い。しかし,360度カメラによる調査から,グループ談話そのものについての学習の必要性や,個々の学習者がもっているグループ談話を促進する力を活かすグループ編成が必要であることが明らかになった。(イ)360度カメラでグループ内の個人を追跡したことで,グループ学習においては周りの学習者を「価値ある他者」と認識することも大切であるがそのためにはまず自分自身が周りの学習者にとって「価値ある他者」であると認識することが前提であり,それなしではグループ学習の充実はあり得ないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
グループ談話の様相の類型化と創造的なグループ談話に必要なコミュニケーション力の検討【課題②】 基礎研究として,文献研究を継続する。 実証研究として,グループ談話の様相の類型化を図り,グループ談話に必要なコミュニケーション力について検討する。そのために「創造的なグループ談話に必要なコミュニケーション力にはどのようなものがあるか」,「グループ談話の様相をどのように類型化するか」について検討とともに,平成28年度の研究の課題である「学習者のグループ談話が充実する国語科単元をどのように創造するか」「学習者個人をとらえることとグループ編成はどうあるべきか」「グループ談話の充実をどのように図るか」についても検討する。 当初の研究計画に軽微な修正を加え次にようにする。3.グループ談話の詳細なトランスクリプションの分析を行い,グループ談話の傾向の記述を行う。4.トランスクリプションの詳細な分析から,グループ談話の様相の類型化を図り,グループ談話に必要なコミュニケーション力について検討する。5.実際のグループ談話において撮影した動画をタブレットでモニタリングしたり自己評価したりさせ,それを記録として残して効果を測定する。 減額分の対応として,28年度の研究の実績を参考にし,次のように見直しを行う。(ア)基礎研究のための文献購入を控える。(イ)成果の発表を目的とした学会参加を精選する。(ウ)調査地を見直す。(エ)データ化の方法を見直す。ただし,研究の効果を担保するため,それぞれ,(ア)各図書館等を活用する。(イ)成果を達富洋二研究室のウェブサイトでも公開する。(ウ)調査校をグループ談話研究の先進的な取り組みをしている小学校や中学校等に変更し,効果的な調査を行う。その際,大がかりな機材の持ち込みができないため効果的なデータ採取が可能な小型の録画機器(iPod)を購入する。(エ)自身でデータ化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定してた調査地での調査及び研究会議が延期になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
延期された調査及び研究会議を,平成29年度の調査及び研究会議予定に組み込み,当初の内容が達成できるように調整する。
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