研究課題/領域番号 |
16K02687
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研究機関 | 青森公立大学 |
研究代表者 |
植田 栄子 青森公立大学, 経営経済学部, 准教授 (70445162)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Narrative-based medicine / 医師-患者コミュニケーション / ナラティブ / 社会言語学 / 質的研究 / 身体接触・触診の意義 / 非言語コミュニケーションの解釈 / 多声性 |
研究実績の概要 |
<研究成果> 医師と患者の診療談話音声を聞いてもらい、全体的な評価と会話の中断となる「触診(血圧測定及び心音聴診)」の「メタ言語」的意味について、医師の解釈をインタビュー形式で聴取するナラティブ・データを引き続き収集録音した。追加のデータにより、さらに医師のメタ言語の解釈や行為の意図の多様性が明らかになった。 特に、医療コミュニケーション教育専門の大学医学教育センターの医師から得られたインタビュー・ナラティブにより、上記「触診」のメタ言語解釈として、3つの可能性:①診察室外で事前測定した患者の血圧を医師自身の手で再確認する、②医師による血圧測定及び心音聴診の身体接触を通して、患者との良い関係を構築する、③患者による同一トピックの発話と繰り返しを中断する、という「医師フレーム」の多声性が確認された。 明示された医師の「3つの解釈フレーム」に基づき、他医師のインタビュー・ナラティブを分類すると、少なくとも3グループ:1) ネガティブな解釈(フレーム③)、2) ポジティブな解釈(フレーム②)、3) 不明、と医師間で解釈が分かれる結果となった。医師間の解釈の相違は、前年度の研究で既に示唆されていたが、今回明確に「医師フレーム」の「多声性」と「多様性」が可視化された。 本研究成果は、2018年3月にGURTで口頭発表を行い、さらに2018年12月刊行の書籍に収録される見込みである。 <研究の意義> 医師の発話及び非言語的振る舞いに対する解釈が、非医療者の談話研究者では表層的なテキストに限定されざるを得なかった。しかし、発話者本人でなくても専門家である他医師による解釈ナラティブを分析することで、医師のメタ言語の複雑性が解明された。これにより、非医療者である患者・病者・一般人側も、医師との診療コミュニケーションをより効率的、相互行為的かつ対等なものにしていく一助となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度夏季休暇を利用して当初の計画通り四国・九州地方への広範囲データ収集を行う予定だったが、対象となる複数医師の日程調整ができず、中部にある大学病院医師たちへのインタビューを代替として先に行った。 しかしながらそれが幸いにも、医療コミュニケーション教育を専門とする医師のインタビュー・データの分析を先行させることになったので、医師の解釈の多様性・多声性に関する知見が深まる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ではあるが、医師へのインタビューは貴重なデータとなることから、今夏再度調整して、四国・九州地方勤務の医師に対するインタビュー調査を集中して行う。 異なる専門性、性別、地域性における医師のインタビュー・データの集積を進めることで、さらに精度の高い医師のメタ言語に対する解釈の可視化を行い、「医師のフレーム」の相違の要因が、専門性、性別、臨床経験による実証的根拠を重ねていく。 今後も医師の内省に基づく価値観や医療コミュニケーション・スタイルの類型化・一般化をすすめる研究へとつなげていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
どうしても洋書購入までの時間がかかるため自費購入せざるを得なかったので残金が生じたが、次年度では事前に手続きを取って当該助成金を活用し、早期の洋書購入に充当させる予定である。
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