研究課題/領域番号 |
16K02698
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
猿橋 順子 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (10407695)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会言語学 / 多言語 / 公共空間 / 移民 / フェスティバル / 言語マネジメント / 言語政策 / 言語対応 |
研究実績の概要 |
本年度は多言語公共空間の事例研究として実行可能かつ適切な調査地の選定を行った。複数の「異国フェス」において試験的な実地調査を重ねた。個々の事象の独自性と、事象間に認められる共通点を抽出、整理した上で、用語の定義づけに取り組んだ。また、比較・対照する事象としてグローバルな展開が進んでいる、癌患者および家族の社会的認知を啓発する「リレー・フォー・ライフ」について、国内外で試験的な実地調査を行った。 広範に事象を見ることで、本研究が今後、焦点化し得る研究設問の列挙と整理を行った。また実地調査、データ収集、データ整理の手順と方法を検討した。多言語公共空間のイベント場は、様々な立場の参与者の参加と介在が認められ、誰の視点からイベントを捉えるかによっても見え方が大きく異なってくることが分かった。特に日本に暮らす当該国出身者にとっての異国フェスの意味は丁寧に探求していく必要があることを確認した。さらに、より具体的・物理的なイベント実施の場は、イベント以前・最中・終了後に展開されるオンライン上のコミュニケーションとも密接にかかわっている。そのため、インターネット空間のデータ収集と分析は、現場のフィールド調査から得られるデータを解釈する上でも、またそれを含めてイベントとする視点を持つ上でも重要である。現場のエスノグラフィと、デジタル・エスノグラフィをいかに融合させていくかは、方法論上の重要な課題である。 これらの問題意識から、隣接領域も含め学術研究書を調達し精読に入っている。また、研究環境を整えるために、必要な機材(ビデオカメラ)、ソフトウェア(NVivo)を調達し、研究協力者との役割分担の在り方について調整した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標であった、「調査体制の整備と調整」は概ね順調に進んでいる。異国フェスについて、運営形態にレパートリーが認められるものの、広く共有されている仕組みや様式を確認した。実地調査を通して、異国フェスの運営、演出、参加する人々と知り合い、今後、より深く多層的な調査を実施するための人脈を広げつつある。 ケーススタディの一部は国内の学会・研究会で発表を行い、学術雑誌や学会のニューズレターでも公開した。口頭発表では、新たな研究領域としての可能性への期待が寄せられた。移民研究に取り組む研究者の多くが、多かれ少なかれ異国フェスとかかわる経験を有しており、今後の研究の広がりが予見された。 論文執筆は二点行った。一点は古くからある移民の集住地域における祭りと、異国フェスの相違点についてミャンマー祭りを事例に考察した。祭り名に関する国や地域、民族、文化を追慕する側面(宗教性)において、緩やかなつながりが認められた。二点目は台湾フェスタのステージトークを事例に、多言語の管理がいかに行われているかをネクサス分析で明らかにした。現段階ではケーススタディにとどまっているが、ひとつの事例を丁寧に見ていくことで、新たな研究課題が精査される。引き続き、研究設問、調査、分析、成果発表の諸段階に循環的に取り組んでいく見通しが立っている。 一方、多言語公共空間での言語コミュニケーション現象を把握するためには、それぞれの場で用いられる言語についての理解が必要で、それは研究代表者および研究協力者だけでは限界があることも確認した。大学院生など、この領域に関心を持つ人々の助けも借りながら調査を行っていく必要があるが、そうした人材を確保することは今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は対象とする事象の範疇を把握するために、なるべく数多くの異国フェスに、時間の許す限り足を運んだ。ひとつのフィールドで得られる情報が非常に豊饒であることが確認された。これは本研究の可能性でもあるが、同時にデータ整理が追い付かないという課題にもつながる。異国フェスを対象とした研究課題は、さまざまに焦点化し得る。今後は、精査した研究設問に応じて、論理的に調査地選定を行い、十分な事前準備と、フォローアップができるよう研究計画および手順を調整していく。 また、異国フェスを対象としたエスノグラフィー調査には前例が少ない。調査研究の手順についても、後の研究に役立てられるよう、整理・検討・記述していく余地がある。 2017年度は二つの国際学会において発表を予定している。ひとつは国際語用論学会であり、もうひとつは言語政策(計画)研究の国際学会である。日本で見られる異国フェスの社会言語学的な営みが、グローバルな視点から見た時にいかなる共通点が見出し得るか、専門家らのフィードバックを受け、今後の研究の糧として行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はデータ入力を依頼する人材を確保することができなかったため、人件費が発生しなかった。 また、2016年度に2件予定していた国際学会での発表が1件のみとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究内容に関心があり、日英語以外の言語に詳しい人材の確保に努め、停滞しているデータ整理を鋭意進めることとする。 2017年度は国際学会での発表が2件採択された。学会参加および研究発表を実施する。
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