研究課題/領域番号 |
16K02700
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
遠藤 雅裕 中央大学, 法学部, 教授 (10297103)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 客家語 / 統語論 / 陸豊客家語 / 海陸客家語 / 類型論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Schaank, S.H. (1897) Het Loeh-foeng-dialect. に記述されているインドネシア・ボルネオ島の陸豊客家語の統語現象を整理し、同系の台湾海陸客家語と比較することである。16年度は以下のような分析のための基礎作業1~3を行なった。 1.Schaank(1897)の例文(pp.28-71)の電子テキスト化と基礎的な分析は7割程度を終えた。またグロッサリー部分(pp.71-129)の入力もほぼ終了した。 2.客家語母語話者による例文の判定作業については、台湾新竹県で8月および3月の各6日間おこなった面接調査で、ほぼ半数にあたる約540項目を終えることができた。 3.海陸客家語の教材《新客話課本》1~2,新竹:天主教華語學院(1962年)の電子テキスト化をおこない、比較のための資料とした。 上述の作業と並行して、菅向榮(1933)《標準廣東語典》(四県客家語)等の文献等も利用し、主として比較文・述語動詞前置の経験相標識「識」および未然モダリティ標識「會」の3項目についてより詳細な調査分析をおこなった。その結果、比較文については、陸豊客家語は標準中国語と共通の「比」字文よりも、比較標識「過」を動詞に後置する文型の頻度が高いこと、「識」の機能は経験相を表わすという点で海陸客家語と共通であるが、さらに粤語にみられるような可能を表わす機能があることを確認した。また「會」については、海陸客家語の方が未然を表わす文ではより義務的に用いられることが明らかとなった。具体的には、陸豊客家語の「あなた+なぐる+彼+疑問文文末詞」というYES-NO疑問文に対して、海陸客家語は「あなた+「會」/「有」+なぐる+彼+疑問文文末詞」のように、未然(會)または已然(有)の標識が必要となる。その他の現象も勘案しすると、特に未然を有標形式で言語化しようという傾向があるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.当初、電子テキスト化の底本としていた英訳版Schaank (Bennett M. Lindauer訳)(1979) The Lu-feng dialect of Hakkaが、予想外にまちがいがおおかったために、オランダ語原本での詳細な確認が必要となり、それに時間をついやしたため。 2.《新客話課本》1~2. 新竹:天主教華語學院の存在を知り、電子テキスト化をおこなったため。 3.本務校の校務などで調査時間が十分とれなかった上に、例文の判定に予想外に時間がかかったため。
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今後の研究の推進方策 |
Schaank(1897)の例文について、現地調査で判定を可及的速やかに終え、個々の例文の構造を分析し、呂嵩雁(2007)・梁心兪(2007)等の先行研究も参考にして各例文に漢字表記・日本語訳等の情報をくわえてデータベースを構築しつつ、陸豊客家語と海陸客家語の比較検討をはじめる。 現在までに確認できた大まかな相異点は、陸豊客家語は(1)場所標識(前置詞・方位詞等)の使用頻度が低い、(2)形容詞述語文にコピュラの「係」を用いる、(3)持続相標識に「緊」を用いる、(4)指示代詞が日本語と同様コソアの3項対立であることなどである。また、その他の文法項目についても、面接調査で引き続き相違点を確認する。 さらにこれらについて、共時的には、主として関連するビン語・粤語やその他の客家語方言、さらには隣接するショオ語などの少数民族言語を文献を用いて調査した上で言語接触・言語連合の可能性を検討する。また通時的には、上古漢語・中古漢語などの文献のほか、《標準廣東語典》・《新客話課本》などの文献を利用して検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.物品費としてPCの購入を検討していたが、パスワードの処理など、現在使用しているPCからのすみやかな乗り換えが困難と判断し、ひとまず購入を延期し、またその分を《新客話課本》電子テキスト化の謝金に振り替えたが、謝金が当初予算の物品費ほどではなかったため。 2.参加した国際学会(国際中国言語学会)の開催場所が近距離であり、当初の見積もりよりも旅費がかからなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
17年度はPCの更新ならびにと国際学会(国際中国言語学会・ハンガリーで開催予定)での研究成果発表(未然モダリティ標識「會」について)のための旅費に使用する。
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