研究課題/領域番号 |
16K02701
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
森 聡美 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教授 (90305392)
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研究分担者 |
祐乗坊 由利 玉川大学, ELFセンター, 助教 (80773465)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日英同時バイリンガル児童 / 言語間相互作用 / ナラティヴ / 項構造 / トピック維持 / ナラティヴ構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、学童期の日英同時バイリンガル児の言語別ナラティヴのコーパスを構築し、各言語の語りに現れる言語間の影響(相互作用)の分析を通して、バイリンガル固有の言語能力の特徴を明らかにし、新たな二言語同時習得理論を構築することを目的としている。具体的には、日本語と英語とで明らかな相違がある①項構造、②トピック維持、③ナラティヴ構造の3領域において、言語間相互作用の有無、方向ならびにその程度―各言語の特徴がどのように混在しているのか―を明らかにしていく。28年度に行ったデータ収集(日英バイリンガル児ならびに日本語モノリンガル児)と①②の分析に基づき、29年度においてはさらに③の分析も進め、これらに関する学会発表と論文執筆を進めてきた。また、更なるデータ収集(日英バイリンガル児の長期的データならびに英語モノリンガル児)も行った。 児童を対象とする研究において、幼児の言語発達に基づき提唱されてきた言語間相互作用に関する仮説を支持する分析結果が得られたことから、幼少期限定の現象であるという前提に疑問を呈し、より成熟した言語使用者にも生ずる言語間作用の要因―言語処理上の特性等-について考察した。これは、数少ない学童期の同時バイリンガル研究、さらには言語間相互作用の本質についての更なる追及に一石を投じるものである。また、日本語が優勢言語であるにも関わらず影響の方向性が英語から日本語の一方向であることが確認され、仮説が優勢言語に左右されないこと、また、構造上の重複が少ないとされる二言語間においても同じ仮説で説明ができることの根拠を示した。 複数言語環境下で育つ子ども達は国内でも増加の一途を辿っている一方、彼らの言語能力を正しく理解するための基礎的な研究は国内では極めて少ない。本研究はこのような子ども達への適切な教育や指導を見出すための貴重な知見を提供するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度においても、交付申請書に記載した計画についてほぼ予定通り作業が進められた。現時点で終了あるいは進行中である作業は以下の通りである。1)バイリンガル児童の両言語のナラティヴデータの第1期収集ならびに書き起こし作業が終了している。2)バイリンガル児童で追加の第1期データ収集を行い、書き起こしを開始している。3)第1期収集時の被験者のうち、承諾が得られた児童については1年以上の間隔をあけた後、第2期収集を行い、一部書き起こし作業を開始している。4)日本語のモノリンガル児童のデータ収集ならびに書き起こし作業が終了している。5)米国在住の研究協力者に依頼し、英語モノリンガル児のデータ収集を行い、書き起こしを開始している。6)バイリンガル児データで書き起こしが完了しているものについては、計画している3つの課題、すなわち①項構造と②トピック維持、そして③ナラティヴ構造(因果・時系列)のコ―ディングと分析が終了している。7)本プロジェクトで収集したバイリンガル児の英語データと、データベースから得た英語モノリンガル児のデータとの比較分析、さらに日本語モノリンガル児データとバイリンガル児の日本語データとの比較分析が完了しており、29年度6月開催の国際学会(アイルランド)、9月開催の国内学会、10月、11月開催の国際学会(米国)にて発表を行った。また、学会発表で得られたフィードバックに基づき、学会プロシーディングスならびに研究科の紀要論文を執筆した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は新たに収集したデータ(バイリンガル第1期、第2期ならびに英語モノリンガル)と分析を進めていき、各研究課題について縦断研究を加えていく。また、早期継続バイリンガルと同時バイリンガルとの比較研究も実践していく。 研究の発表については、30年度は研究成果を国際学会で発表を重ねると同時に、得られたフィードバック等も踏まえて論文執筆を行い、査読付き学術誌への投稿を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)前年度からの繰越金が多額だった上に、第2期データ収集が年度末になったために、書き起こしやコーディング作業等の研究補助に対する謝礼ならびに調査協力者謝礼等の支払いが年度内に行われなかったことが主な理由である。
(使用計画)次年度使用額と平成30年度請求分の助成金を合わせ、前述した第2期データ収集で集めたデータの書き起こしならびにコーディング作業の人件費・謝金の支払、また国内外で開催される国際学会での発表に係る経費にあてる。
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