研究課題/領域番号 |
16K02704
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
阿出川 修嘉 神奈川大学, 外国語学部, 非常勤講師 (80748088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サンプル収集 / データベース作成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、現代ロシア語における動詞不定詞(不定形)の文法的行動の記述のための基礎研究の一環として、先に申請者が提案した「体の形態的対立のスケール」という指標の有効性を検証することにある。ロシア語動詞は、主としてアスペクトの意味を表す、「完了体」と「不完了体」の二項による形態的対立から成る「体(たい)」という文法的カテゴリーを備えている。上記の指標は、動詞の諸形態のうち、不定詞で用いられる際に、完了体と不完了体のうちどちらの体の形態が選択され、その選択に何らかの「偏り」があるかどうか、もしあればそれはどのようなものかといった文法的行動を、数値化した上で把握・記述する際に資するものとなることが期待される。 体の形態の選択について、特定のモダリティの意味を持つ述語と結合する際に、一定の偏向的特徴を見せる動詞があることは既に明らかになっているため、これらの動詞が他の統語環境においてどのような振る舞いを見せているかについて記述し、また、同様に偏向的特徴を見せる動詞が他にあるかどうかについても本プロジェクトによって検証を進める。最終的には、こうした偏向的特徴が、統語論的要因あるいは意味論的要因によるものなのか、さらには他の何らかの要因によって引き起こされているのかという点を明らかにすることを目指し、その目的に寄与するような成果を得ることを見込んでいる。 当該年度の当初の計画では、イ)サンプルの収集、及びロ)そのデータベース化(それに伴ってメタデータセットの検討)の二点を完了するべき作業と位置づけていた。後述の理由により、当該年度は当初期待されていた進捗を見ていないものの、限られた時間内でウプサラ・コーパスからのサンプル収集は完了し、データベースの作成に着手している(後述)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度の当初予定として、イ)コーパスからのサンプルの収集、及びロ)そのデータベース化(それに伴ってメタデータセットの検討)の二点が到達目標として設定されていた。 サンプル収集作業は、コンコーダンスツールにAntConcを用い、ウプサラ・コーパスからの収集は完了している。計数の結果、現時点で得られているサンプルは、文字列「-ть(翻字形:-t’)」を含むサンプルが34750例、文字列「-ться(同:-t’sja)」を含むサンプルが3583例、文字列「-ти(同:-ti)」を含むサンプルが31937例、文字列「-тись(同:-tis’)」を含むサンプルが85例、文字列「-чь(同:-ch’)」を含むサンプルが1426例、文字列「-чься(同:-ch’sja)」を含むサンプルが17例となっている。これらのサンプルから、不要な例を除外した上で分類を行い、データベースとして順次整備しているが、現時点ではウプサラ・コーパスのみを対象としているにもかかわらず、当初の見込み以上にサンプル数が得られてしまい、これらをデータベースとして整えていく際にかかる時間についての目算が狂ってしまったこともあり、まだデータベース化は完了していない。この作業については引き続き次年度以降に作業を進める。同時に、作業の効率化のために、当初予定していた作業の変更なども視野に入れている(後述)。 また、家族の急な病気及びそれに伴う複数回の入院、また自身の体調不良などが相次いでしまったことで、通常業務をこなすだけで目一杯になってしまい、当該研究課題に当初充てる予定であった時間を十分に確保することができなかったことも作業進捗の遅延の原因の一つとして挙げられる。この点については状況が改善しつつあるので、次年度以降は当初予定通りの時間が確保できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り、当該年度の当初の計画は、サンプル収集及びそれらから不要な例を除外し、分類・整理を行うデータベース化であったが、ウプサラ・コーパスから得られたサンプル数が想定以上に多く、データベース化の作業がまだ完了していない。当初の予定に沿って、現時点でのサンプルに加え、ナショナル・コーパスやSketchEngine(R)のコーパスからサンプルを収集し、データベースを作成する場合、膨大な時間がかかることが予想される。そのため、作業の効率化と軽減化に向けた何らかの方策を立てる必要がある。 まず、サンプルを収集する範囲の絞り込みが挙げられる。サンプルコーパスであるウプサラ・コーパスだけでも、一定数のサンプルが得られるため、まずは対象とするコーパスをウプサラ・コーパスだけに絞り込み、そこで得られるデータの範囲内で当該課題の検証を重点的に行うという方向性が考えられる。ウプサラ・コーパス内で現れる動詞のワードリストを別途作成することによっても、作業効率を高めることができるだろう。 別の方向性からは、特定の動詞語彙にのみ絞り込んで記述を行うという方策も検討している。例えば、特定のモダリティの意味を持つ述語と結合する場合の体の選択傾向が既に明らかになっている動詞(群)のデータを収集し、それらの動詞の、他の統語環境における体の選択の実態について調査することで、用いられる統語環境の差異に応じた選択実態について記述し、その後の比較・検証作業のための基礎データを整えることができる。 また、当初対象としていた不定詞の用法は、他の語との結合で用いられる「接語的用法」と、不定詞が独立して用いられる「非接語的用法」の双方としていたが、まず不定詞の使用例において両用法が占める比率を、ウプサラ・コーパスからのデータに基づき大まかに把握し、二用法のうちどちらか一方の記述に重点を置く方向に変更することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
別様式において述べた理由により、当該課題の進捗に遅れが生じている。それに伴い、当初予定していた諸々の物品(文献、ソフトウェアなども含む)の購入なども全て完了していないため。また、当初予定しており、その分の額を計上してあった渡航費や人件費なども、作業進度の遅れにより当該年度にはかかっておらず、次年度以降に必要となってくると考えられるため、引き続き計上している。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の通り、まだ必要となってくる物品の購入が全て完了していないため、それに充てる。また、当該課題の進捗に応じて、渡航費及び人件費が発生してくる可能性があるため、そのための費用も計上している。
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