研究課題/領域番号 |
16K02704
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
阿出川 修嘉 神奈川大学, 外国語学部, 非常勤講師 (80748088)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | サンプル収集 / データベース整備 / 文法形式選択の偏向的特徴 / 体・時制形態ごとの文法形式の使用実態 / 偏向的特徴が保持される動詞 / 偏向的特徴が保持されない動詞 / 語彙的意味が類似した動詞語彙の体の選択傾向 / 語彙的アスペクトが類似した動詞語彙の体の選択傾向 |
研究実績の概要 |
調査計画に照らして全体として進捗に遅れが出ており、動詞の調査対象を相当程度絞り込まざるを得なくなった。不定形の場合に完了体の形態で用いられる割合の高い動詞語彙を主たる対象とし、これらの動詞語彙が、不定形以外の動詞諸形態で用いられている場合にどのように体の選択がなされているかについて、引き続き調査を行なっている。 その際、従来とは異なる分類基準の可能性も考慮に入れている。上の調査の途上で、動詞の持つ意味の類義性に応じた体の選択傾向の差異に関する示唆を得られたため、それを検証する目的も兼ねて、動詞語彙sluchat'sja/slichit'sja(以下ロシア文字はラテン文字に簡易的に翻字したものを提示する)を試みに取り上げ、1)語彙的意味において類義性を持つ動詞(proiskhodit'/proizojti, sovershat'sja/sovershit'sja, osushchestvliat'sja /osushchestvit'sja, poluchat'sja /poluchit'sja)と、2)語彙的アスペクトの観点から類似していると考えられる動詞(zamechat'/zametit', prikhodit'/prijti)の頻度数調査をそれぞれ行い、諸形態における体の選択傾向について比較分析を行い、使用頻度数の多寡から動詞語彙の語彙的アスペクトの別を知る手がかりを得ることができる可能性を示した。 従来、動詞の諸形態ごとの使用頻度調査は行われてきているが、語彙的意味や語彙的アスペクトのような意味的な類似性に基づく分類を適用した上で調査、データの整理が行われた例は管見によれば存在していない。今回の調査は、まだ初期段階のものではあるものの、その可能性を探るものとしても位置付けられるだろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
担当授業の内容変更及びコマ数自体の増加に伴う準備時間の増加(また各勤務地への移動時間の増大)などが生じたため、当該研究課題のために確保できる時間などにも影響が出ることとなった。 また、当初予定では、学生・院生に計数作業などの補助をしてもらうことを見込んでいたが、見込んでいたそれら候補者の諸事情により作業協力を求めることが困難な状況となっており、あらゆる作業を単独で行うという形になっていることも作業全体の遅れにつながっている。 これら外的要因を考慮に入れた上で調査計画の軌道修正を行なったが、それに応じて調査対象とする動詞語彙の再検討が必要となり、またサンプル収集をするべき動詞諸形態のバリエーションも当初想定よりも増えたため、その分作業工数も増えることとなり、且つ複雑化したことも遅れの大きな要因となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度までの調査により、不定形の体の選択傾向と不定形以外の諸形態(過去形、非過去形など)の場合に観察される体の選択傾向との比較が一部の動作語彙について可能となった。これらの比較から、それぞれのケースでの選択傾向に変化が生じるものと、一貫した選択傾向が観察されるものとがあることが明らかになった。一方で、2019年度の調査により、語彙的意味及び語彙的アスペクトに関して類似性を持つ動詞語彙を対象とし、それらの体の選択傾向についても比較を行い、語彙的アスペクトの類似性と体の形態選択における傾向の相関など、いくつかの興味深い結果を得た。これにより、動詞語彙の類義性・意味的類似性という新たな基準を用いた動詞語彙の分類という新たな示唆も得られた。 今後は、対象とする動詞語彙を外国人ロシア語学習者向けに編纂された語彙リスト(“Sistema leksicheskikh minimumov sovremennogo russkogo jazyka”, 2003年)の中に載録されている動詞から選定することを検討しているが、その際上記の成果を踏まえつつ、動詞語彙の類義性、意味的類似性という基準を考慮した上で、対象とする動詞語彙の分類・取捨選択を行い、計量的データから観察される使用上の傾向によって当該動詞語彙の意味論的な特徴付けまでもが可能かどうか考察する。 もし特定の動詞語彙に際立った偏向的な選択傾向などが観察されれば、今度は当該動詞語彙が語彙的意味あるいは語彙的アスペクトの面で他の動詞語彙と類似性が認められるかどうかの検証をおこなうという方向性を考えている。 こうした調査を行う過程で、本研究課題の当初の主たる観察対象であった、動詞の不定形のデータも併せて収集可能となるため、不定形の場合での体の選択実態についても継続的に観察が可能な形でデータを整理することを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度までで購入が間に合わなかった文献などもあるためその購入、及びその他に必要となる小物品などの購入のため。また、報告書などを作成する場合の費用なども含まれている。 また、当初予定していた作業補助者が2019年度は確保できなかったため、翌年度以降で作業補助を引き受けてくれる学生など出た場合に謝金などを支払う必要があるため。また、母語話者のインフォーマント調査が必要になる場合には、そのための謝金分も必要となる可能性があるため計上している。
|