2019 年度実施状況報告書

茨城県南東部地域における特徴的方言とその変容に及ぼす移住者増に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号	16K02717
研究機関	茨城大学
研究代表者	杉本妙子茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (30206429)
研究期間 (年度)	2016-10-21 – 2021-03-31
キーワード	茨城方言 / 方言の記述的研究 / 方言基礎語彙 / 茨城方言アクセント
研究実績の概要	本研究課題の目的は、茨城県南東部地域における方言変容の様相を、主に移住者の増加と関連付けて動態的に解明することである。そのためには、当該地域方言の記述が不可欠である。そこで本研究課題では、平成30年度までに茨城県神栖市と潮来市において語彙を中心に現地調査を行い、両地域の方言の語彙の記述的研究を行ってきた。令和元年度は、潮来市に隣接する行方市においても現地調査を行った。これら現地調査は、当該地域方言の体系的記述を行うことと、その結果をもとに多人数調査に発展させていくためである。令和元年度に取り組んだのは、下記4点である。１　行方市における語彙調査のために、約2000語の基礎語彙から精選した18分野742項目（若干の独自項目を含む）の語彙調査票を作成した。調査に用いた調査票は724項目に茨城方言の俚言形（参考語形）を加えたものである。また、神栖市で観察される東京式アクセントと比較するために、アクセント調査用に神栖市調査に用いた調査票ならびに先行研究『玉造のことば』を参考にアクセント調査票を作成した。２　上記の語彙調査票及びアクセント調査票により、北浦地域を中心に行方市において現地調査を実施した。また、同地域の民俗・暮らしにかかわる談話収集調査を行った。調査は、2019年10月、12月、2020年1月。（これ以降の調査は、新型コロナウィルス感染拡大により実施できなかった。）３　行方市調査に先立って、行方市方言に関する事前資料調査を玉造・北浦地域で複数回行い、方言集や地域の民俗等の方言に関わる多数の資料を入手した。それらは、現地調査に活用するとともに、調査地域の方言の概要把握や民俗・暮らしを知るために用いた。４　神栖市と行方市における語彙・アクセント調査の記述を進めた。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 4: 遅れている理由申請時の計画に対して、研究の進捗が遅れているのは、以下の理由による。第一の理由は、本研究課題の採択が平成28年度第7回分の追加採択であったこと（採択の学内連絡は平成28年10月24日）から、初年度において計画の実施が大幅に遅れ、それが令和元年度にまでも及んだためである。第二の理由は、令和元年度においても文化庁委託事業（被災地における方言の活性化支援事業）を受託（平成24年度から単年度事業として継続して受託）したことと、茨城大学の改組に伴う校務（特に新カリキュラム実施に係る教育業務）や入試実施副委員長として入試実施に関わる業務が増大したことによる。これらの理由及び新型コロナウィルスの影響により1月中旬以降は調査が実施できず、本研究課題を予定通り進めることができず、研究期間を1年延長するに至った。令和元年度は、現地方言調査や資料調査を複数回実施するなどによる進展はあったものの、計画の全体からみると、上述の「研究実績の概要」で述べたとおり、研究を完了できなかった。
今後の研究の推進方策	令和元年度までに実施できた調査対象地域での現地調査の結果のまとめを、令和2年度前半を中心に行い、当該地域の方言の記述を完了させていく。方言の記述は、語彙、アクセントを中心に行う。それと並行して、当該地域における方言意識や方言認知に関する多人数調査のための調査票（実施用）を完成させ、調査を実施し、その結果を集計、分析する。令和2年度後半は、本研究課題の成果を報告書にまとめ、公表し、本研究課題を完了させる。報告書には成果として、当該地域方言語彙の記述、多人数調査に基づく方言意識・方言認知の結果とその分析、当該地域の方言談話を集録する計画である。なお、新型コロナウィルスの感染状況によっては、新たな調査が困難になることも考慮して、研究を進めていく。
次年度使用額が生じた理由	本研究課題の採択決定が遅かったため、初年度の平成28年度から研究の遂行が遅れ、さらにその遅れを令和元年度までに吸収することができなかった。令和元年度末までに実施できなかった研究（「８．今後の研究の推進方策」に記載のとおり）については、それに相当する未執行予算を令和2年度に使用し、遂行できていない研究計画と合わせて本研究課題を完了させる。未執行予算を使用する主たる研究計画は、当該地域方言の現地調査（補完調査等）、多人数調査（自記式、通信調査）の実施とその結果の集計（アルバイト雇用）、研究成果報告書の作成と公的図書館等への送付である。