3年計画の最終年度にあたる30年度は、これまで北陸三県の県庁所在地である金沢市、富山市、福井市を中心に、石川県では輪島・珠洲・七尾市、富山県では魚津・高岡・氷見市、福井県では小浜・敦賀・越前・勝山・大野市での臨地調査で収集できた方言景観約300種を、その活用方法によって整理・分類し、考察の基礎資料とするための資料集の作成を目指した。また、方言景観の使用とその活用者および受容者の意識との関連を探るために29年度に実施した方言意識調査についても、その結果の整理を進め、方言景観の背景要因としての考察を進めた。そして、これらの研究成果の一部は、2018年10月13日に岐阜大学で開催された第3回実践方言研究会での「マスメディア・生涯教育を中心とした地域への方言の発信」というテーマでの口頭発表の中で取り上げ、そこでの発表内容に基づき論文「生涯学習における地域への方言の発信」(『実践方言学講座 第2巻』所収、くろしお出版、2019年秋刊行予定)を執筆した。また、研究成果報告書『北陸地方の方言景観《資料集》』(2019年3月、pp.1-101)を作成した。 『北陸地方の方言景観《資料集》』では、北陸地方の方言景観を(1)看板・キャッチコピー類、(2)方言ネーミング、方言グッズ類、に分類し、(1)では県内の地域ごとに、(2)では方言ネーミングと方言グッズ類、その他に分けて、収集した約300種の方言景観を、そこで用いられている具体的方言形式及びその共通語訳とともに示した。その結果、石川県が190種、富山県が55種、福井県が61種となり、富山・福井に比べて石川が3倍余りあることがわかった。石川県の方言景観は、代表的な観光地である近江町市場等を含む金沢市の多さが目立ち、2015年3月の北陸新幹線開業前後の地元の人々の方言に対する意識の変化がその背景にあることが明らかとなった。
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