2019年度は,福井県三型アクセントに関連して,同じ三型アクセント体系を有する南琉球多良間村仲筋のアクセントに関して調査を行った。特に名詞句のアクセント(指示詞+名詞,形容詞+名詞+助詞,指示詞+形容詞+名詞+助詞,N1ノN2+助詞,N1ノN2ノN3+助詞)を調べた。その結果,この方言の名詞句の主要部には,義務的にアクセントが置かれることが判明した。その性質は本土の方言には見られない特異な性質を有するものであることが明らかになった。なお,この成果は,第159回日本言語学会大会で発表した。 また,福井県内部の三型アクセントについては,研究協力者の松倉昂平と「福井県三型アクセント」をまとめた。この報告書は福井県沿岸部に分布する種々のタイプのアクセントについて扱ったもので,沿岸部のN型アクセントの分布状況,主要な福井三型アクセント(あわら市浜坂,北潟,坂井市三国町安島,福井市鮎川,蒲生の各方言)とその他のN型アクセントを概要,およびアクセント資料を含むものである。これにより,福井県嶺北地方の沿岸部のアクセントの全体像はほぼ明らかになった。 さらに2019年度は,全国的にも特異な音韻現象が見られる,福井県坂井市三国町安島方言の重子音について,話し手の実際の発音を動画に納めたDVD資料を作成した。生え抜きの女性話者3名が重子音の映像資料で,実際の発音がどのようなものか,字幕スーパー付きで,その音声と発音の際の口の形を観察できるようになっている。この収録調査では,安島集落のなかでも海側と陸側の地区とで重子音の現れ方に差異があることが明らかになった。
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