研究課題/領域番号 |
16K02724
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴裕 岐阜大学, 教育学部, 教授 (00196247)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国語史 / 国語学 / 辞書史 / 古辞書 / 資料研究 |
研究実績の概要 |
近世節用集および関連辞書資料の調査・撮影を、福井県立図書館・福井県文書館(以上8月)・秋田県立図書館・秋田市立図書館・秋田県立博物館・にかほ市象郷土資料館(以上9月)・もりおか歴史文化館・八戸市立図書館(以上10月)・神戸女子大学附属図書館(平成29年2月)・龍谷大学附属図書館(3月)において実施することができた。 このうち、秋田県立博物館では『新節用万物大成』(宝永頃刊)を確認、これまで知られていなかったものである。また、秋田県公文書館蔵の「節用集」(仮題。享保18年頃刊)は、内題部分を削除して空白のまま刊行したものであり、かつ『新節用万物大成』の再版とおぼしいものである。未発見の本を、秋田の地で2か所も所蔵していることは、書籍流通面での新知見を得ることになるかもしれず、本研究課題においても貴重な知見につながる可能性がある。 以上の調査に付随して、予備的調査として、由利本荘市本荘郷土資料館・同中央図書館において所蔵書・所蔵者の情報収集をおこなうことができた。これは、国会図書館所蔵の『寿海節用万世字典』の旧蔵者・渡部幾松(同書中の署名による。享和3年時点で6歳ないし7歳。在、出羽由利郡本庄□金浦新町)の家庭環境などの情報と突き合わせ、近世節用集の使用者上の具体例を描出できる可能性を探る意味のあるものである。 節用集の原本購入は、17世紀刊行書5点、18世紀刊行書3点、19世紀刊行書4点を得た。関連書として『大広益会玉篇』(寛永8年刊。零本)ほか漢字字典4点、『日本王代一覧』(寛文4年刊)ほか3点を得た。いずれも端本であったり、汚損の目立つものなので、当初予定していたweb公開は見合わせている。ただし、『節用集』(上巻端本)は寛永6年刊本であって、他に東京女子大学(完本)・福岡市立博物館(上巻零本)などの所蔵があるだけなので、公開の方向で検討したく思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、これまで調査の手が及ばなかった青森・岩手・秋田・福井各県における調査を実施できたことが大きい。この段階で、すでに計画どおりの進展を見ているといいうる。 さらに、概要でも触れたように、これまで知られていなかった『新節用万物大成』(宝永頃刊)とその再版本とおぼしいもの(しかも内題を削除するという不体裁をともなう)を秋田の地で発見できたことは注意される。すなわち、近世の書籍流通(あるいは「辞書流通」と限定すべきか)および刊行という事態が、地域的特殊性を持つケースである可能性があるからである。一定の実用的語彙量をもつ節用集が、地域的に限定されながら印刷された例は、早引節用集についなならば福島・松本・仙台などの例がある。が、秋田県立博物館の『新節用万物大成』(宝永頃刊)は、イロハ・意義分類体で挿絵入り教養記事を擁する、早引節用集よりも手の込んだタイプのものであり、その点でも注意すべきである。このような地域性のあるものについては、松本・仙台の早引節用集複製のように他地での売買がなされたため、版権問題となったことにより発覚したのであるが、そうでなければ察知しにくいものである。今回、秋田において、地域的な流通・出版の事例を確認できたことは、本研究課題にとって予想外の進展といえよう。ただし、そのような特殊な存在であることを確実に論証するには今後の検討如何にかかっており、その意味ではいまだ可能性段階にとどまる事例ではある。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに、北海道・南東北・新潟・長野などでの調査を計画中である。ことに秋田県において『新節用万物大成』が発見できたことからすれば、辞書流通の地域的限定性の確認にもつながることも予想され、他の地での調査を積極的におこないたく思う。 ただ、北海道・南東北などは、東日本大震災およびその前後の地震などにより甚大な損害を被った地であり、調査の難航も予想されるところである(たとえば、函館市立図書館では、かつて国文学研究資料館が調査したおりのデータにある書籍が、閲覧できない状況と知らせを受けている)。他地での調査に振り替えることはまず考えるべきところだが、一方ではまた、町村単位の小さな資料館などにもきめ細かに目配りする必要があることを示してもいよう。たとえば『真草二行節用集』寛文三年版は、石川県立歴史博物館のほかには存しないものであったが、岐阜県郡上市明宝歴史民俗資料館(旧、明宝村民俗資料博物館)にも存することが判明しており、しかも石川県立歴史博物館よりも刷りの早いものであった。このような事例を頼りに、可能な限りすくい上げられるものをすくいあげられればと思う。
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備考 |
※資料公開の際の所掲予定スペース。
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