研究課題/領域番号 |
16K02724
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴裕 岐阜大学, 教育学部, 教授 (00196247)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 節用集 / 辞書史 / 国語学 / 国語史 / 古辞書 |
研究実績の概要 |
研究計画の推進のため、近世節用集のうち17世紀刊行書、特に寛永年間(1624~1644年)後半から寛文年間(1661~1673年)に刊行された『真草二行節用集』諸本の現存本全数調査を中核にするとともに、各所蔵先における他の節用集および関係書籍の書誌的調査と写真撮影による資料収集を行なった。なお、試験的な取り組みであるが、年度当初に調査・資料収集を集中させることにより、研究計画の効率化をはかることとした。調査を実施した図書館・文書館および調査時期はつぎの通りである。大谷大学図書館・福島県立文書館・名古屋大学附属図書館・名古屋大学文学部図書館・西尾市立岩瀬文庫(4月)・青山学院大学文学部国語国文学研究室・京都大学大学院文学研究科図書館・群馬県立文書館・国立公文書館・千葉県立文書館・東北大学附属図書館・都立中央図書館・法政大学図書館・横浜国立大学附属図書館・松本市立文書館(5月)・栃木県立文書館・東京大学附属駒場図書館・国文学研究資料館(6月)。 原資料収集は、四天王寺(大阪、4月・10月)、京都市勧業館(5月)、東京古書会館(6月)、下鴨神社(京都、8月)、大阪天満宮(10月)、知恩寺(京都、10月)などにおもむいて行なうかたわら、旅費の節約および旅行時間の省略が期待されるのでネットオークションも利用した。その結果、節用集については、17世紀刊行書2、18世紀刊行書5、19世紀刊行1を得た。関連書については、和玉篇等漢字典4、韻書1、詩作参考書1、本草関連書2、仮名遣書1を得た。 研究成果としては、調査過程でえた知見を反映させたものが2点ある(5月、9月刊行予定)。また、『近世節用集事典(稿)』(https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/kkn1619.htm)において適宜調査情報を追記している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
17世紀中ごろの節用集の刊行は、『真草二行節用集』と称するものにほぼかぎられていた。書名の変更もなく刊行され続けたが、早く高梨信博「『真草二行節用集』諸版の本文と性格」「『真草二行節用集』の版種」の2論考により、内容・体裁上の変化はゆるやかに進行していたことが報告されている。ただこの2論考はともに1996年に公刊のため、現在の研究水準からすると言及しきれていない部分がある。そこで、本年度の研究計画においては、18世紀中ごろの節用集刊行状況の全貌をあきらかにすべく、現存書の全数調査を企図し、ほぼ計画どおりに遂行した。この結果明らかになったことを摘記すれば次のよう。(1)寛永15年本の現存諸本は同一版木ながら補刻のため4段階に区分できる。(2)慶安3年本も補刻により2段階に分れる。(3)慶安4年孟冬本では2種の版木を用いたこと、それぞれに一部別版を用いたものが存すること。(4)万治2年本を改修した異本が香川大学に存し、これをもとに無刊記本が作られ、さらにその復刻本(覆刻本)が存すること。 原資料収集は、数のうえでは低調であった。そのなかで、早引節用集の発想を促したかとされるも、現存数の少ない『早引和玉篇大成』(享保5年刊)を得ている。また、『江戸大節用海内蔵』(文久3年刊)は紺色表紙本を得た。初刷にごく近い状態のものと思われ、刊行をめぐる諸研究に資することが期待される。このほか『字典節用集』(寛延5年刊)・『真草二行節用集』(寛文3年刊)など、現存数の極端に少ないものが得られており、結果的には充実した収集ができた。 調査・収集結果については、論文のほか、『近世節用集事典(稿)』(https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/kkn1619.htm)において適宜発信することができている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度においては、これまで手薄だった17世紀中ごろ刊行の節用集を中心に調査し、一応の見通しを得た。つづく令和元年度では、17世紀末前後に刊行された諸本を中心に全数調査を行なうこととする。この時期は、版権管理制度の法的準備が進み、無断複製(重版)・意匠剽窃(類版)の禁令が発布されるに至る。出版界は混乱に見舞われたであろうが、これまでその種の報告がなされてこなかった。これは、版権問題への研究・言及が国文学作品を中心に行われたからであろう。したがって、実用書であり、頻繁に出版された節用集類では、また別の展開があるように思われる。当時の節用集出版をめぐる諸様相を明らかにすべく、全数調査を実施したく思う。 なお、平成30年度の調査段階で、『真草二行節用集』の刊行インターバルに極端な粗・密の差があることが指摘できるが、なかには正保3年・慶安4年のように同年中の秋・冬2回の刊行が認められる年もある。こうした現象の解明は困難をきわめる。本屋仲間のような機関がないため関係文書が残されていないことが最も大きな障害である。これをどのように突破していくか、今後の課題とせざるをえない。 あるいは、寛文から元禄を中心に進める令和元年度の調査・研究において、何らかの手がかりが得られることを期待するとともに、柏崎順子の推進する、新たな視点からする「江戸版」研究に注目したく思う。これは、上方版に対する用語だが、ときに粗悪本とのニュアンスを帯びるものである。が、柏崎は一種のライセンス生産のように捉えており、節用集刊行手法・刊行経緯の解明に有効であるかと思われ、情報摂取をすすめたい。 成果については論文化のほか、『近世節用集事典(稿)』(https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/kkn1619.htm)にも反映させる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度2月に調査出張を予定していたが、体調不良のためとりやめとなったことによる。令和元年度に、調査出張のための旅費に充当する。
|
備考 |
調査で得た諸情報を適宜、アップしている。
|