研究課題/領域番号 |
16K02725
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
熊谷 滋子 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30195515)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メディア / 東北方言 / 標準語 / ステレオタイプ / メディア表象 / 周縁化 / 言語イデオロギー / ジェンダー |
研究実績の概要 |
平成28年度は計画の初年度にあたる。実施したことは大きく3つある。1つ目は、東北方言の歴史的、社会的位置づけについて、「粗野、乱暴、女らしくない」といったイメージをもつ東北方言とは対極的なイメージをもつ女版標準語である「女ことば」に注目し、その社会的言説(「女ことば」は衰微した)を批判的に検証し、十分な証拠のないまま流通してしまっていることを指摘し、論文にまとめた。主人公が自立して生きようとするたくましい女性である場合にも、「女ことば」で訳されることの弊害について考察し、論文にまとめた。 2つ目は、東北方言のメディア表象について、NHKで放送された2作品(『どんど晴れ』と『あまちゃん』)を取り上げ、東北方言を使用する人物の性格付けとそれらの人物の東北方言の言語特徴をまとめ、標準語を使用する人物と対照的に、「田舎、乱暴、女らしくない」というイメージを強く押し出されるものとなっていることをまとめ、学会で発表した。 3つ目は、岩手地域で、東北方言に関する資料収集を行った。現地でしか入手できなかった資料があり、有益なものとなった。 4つ目は、アメリカにおけるマイノリティ言語のメディア表象、今回はユダヤ英語について、研究者に会い、直接教示してもらうことができた。アメリカ社会におけるマイノリティの立場がメディアにどう反映されているかを知る機会になった。さらに、アメリカの大学で日本語教育を行っている研究者と、日本語学習者に対する東北方言のイメージ調査について、その内容と方法について意見交換した。内容や調査方法、調査自体については、抜本的に修正した方がよいことがわかり、時間をかけて、さらに継続して、検討していく必要があることが認識でき、非常に有益な意見交換ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、当初計画していたことの7~8割を実施できた。1つ目は、東北方言のイメージ形成の歴史的、社会的背景からみた要因について、そのイメージの対極をなす「都会、丁寧、女らしい」イメージをもつ「女ことば」をめぐり、その言説と翻訳の弊害について考察し、論文にまとめた。この点をさらに詳しく説明すれば、ジェンダーからみて、東北方言が「女らしくない」というイメージを強く持ち続ける要因を考えるのに、その対極にある「女らしさ」を象徴的に示す「女ことば」がどういうふうに位置づけられてきたかを見ていく必要があると考えたからである。日本において、そもそも「女ことば」が広く使われてきたのかという点については、証拠がないまま、言説がひとり歩きしてきた恐れがある。メディアで特に、フィクションにおいて、「女ことば」が広く使用されてきたため、そのイメージが先行した結果、先の言説が幅を利かせてきたと考えられる。その対極に置かれた東北方言のイメージも、メディアによって同様に作られてきた結果、そのマイナスイメージが執拗に維持されてきたと考える。 2つ目は、東北方言のメディア表象について、具体的な作品を分析し、その成果を発表した。 3つ目は、岩手地域で、東北方言についての資料収集を行った。地元でしか入手できない資料や方言例が収集できた。 4つ目は、アメリカ出張により、アメリカにおけるマイノリティ言語のメディア表象の研究者(今回は、ユダヤ英語)に直接その意味づけの教示をしていただいた。さらに、アメリカで日本語教育している研究者と、予定しているイメージ調査の具体的内容や方法について、意見交換を行った。内容や調査方法について、さらに検討が必要なことがわかり、この点については、さらに時間をかけて、検討することにした。そのため、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
東北方言のメディア表象について、引き続き歴史的、社会的背景の検討と、具体的な作品を取り上げて調査分析すること、さらに、アメリカでの、マイノリティ言語のメディア表象についての研究の聞き取りなどを行う。そして、日本とアメリカで、日本語を学習している留学生などを対象とした東北方言のイメージ調査の実施に向けた準備を行いたい。 1つ目の、歴史的、社会的背景の検討については、方言研究者による方言の歴史的位置づけの多くが、戦後は、「方言の価値が上昇し、方言コンプレックスはなくなった」と評価していることについて、さらなる検証を行いたい。1990年代以降、方言がメディアで取り上げられたり、地域おこしでみやげ名やアピールに方言が使われたり、若者が自己アピールを方言でするようになり、方言がかつてに比べて、様々な場面で使われるようになってきたことにより、方言の価値が高まったと判断している。しかし、それが妥当な判断かどうか考察していきたい。 2つ目は、東北方言が使用されているメディアの具体的検討を行う。民放の娯楽番組において、ゲストの東北方言母語話者の東北方言についての語り方を通じ、東北、東北人、東北方言がどのように表象されているのか分析し、発表する予定である(2017年、北アイルランドで開催される第15回国際語用論学会)。また、NHKが、地域発ドラマとして、東北を舞台にした作品を制作しており、東北方言を使う登場人物とその性格付けについてみていく。この点については、方言でも肯定的なイメージの強い大阪方言などが使われる地域発ドラマと比較検討したい。 3つ目は、アメリカでのマイノリティ言語のメディア表象について、さらに、アフリカ系英語などの研究について、聞き取り調査を行いたい。また、東北方言イメージの調査実施に向け、アメリカの大学の研究者と意見交換しつつ、どうすべきか具体的に進めていきたい。
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