古代日本語に「ゴミが捨てられた」のような事態実現の局面を捉える無生物主語受身文が存在しなかったのは,西欧諸言語の中動態がこの種の受身文を発達させた領域に,日本語は自発・可能構文を中心に発達させたからであるとして,スペイン語の中動態と古代日本語のラル構文の体系を対照し,論証した。両言語は,「自然発生」の意味の自動詞から,動作主がいなければ起こり得ない事態をも自動詞的に捉える構文を同じように拡張させているが,スペイン語が「人によって事態が自然発生する(変化が実現する)」という意の受身を確立したのに対し,日本語は「人に対して事態が自然発生する/しない」という自発・可能を中心に確立した。
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