安倍川及び大井川流域流域における方言の変化を、1974年から1983年にかけて行った安倍川及び大井川流域における言語地理学的調査および文化庁各地方言緊急調査(静岡県は1979年度から1981年度に調査)の結果と、本研究において実施した主として安倍川流域における言語地理学的調査の結果および収集した自然談話の分析の比較から、実証的に確認した。また、2011年度から2015年度の科研費研究「方言分布変化の詳細解明―変動実態の把握と理論の検証・構築―」(研究代表者:大西拓一郎国立国語研究所教授)の研究分担者として行った、主として大井川流域における言語地理学的な調査の結果と比較することによって、変化における地域差の有無さらにはこの地域全体における方言の変化について観察することができた。その結果、語彙については根強く残る語も見られるが、日本の言語地理学では有名な「かたつむり」を表す形式がカタツムリとデンデンムシが主となるといった、日本全国でみられる共通語化が、この地域でも進んでいること、ことに大井川流域よりも安倍川流域の方で共通語化が進んでいることなどが確認できた。さらに同じことの別の側面ではあるが、ある概念を表す語がかつては多く存在していたが、その種類が少なくなり、回答される語形の数が減少しているという現象も確かめられた。一方、文法の面では、形容詞のカリ活用系の形式など使われなくなっている形式もあるが、過去を表すケや、推量を表すラなどの、現在の若い世代でも多く使われ形式が盛んに用いられていること、さらに推量を表すズラは次第に使用されなくなっているが、ほぼ同じ意味を表すが分析的表現と言えるダラが使われるようになる、といった新しい形式への変化が見られることなどが確かめられた。
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