研究課題/領域番号 |
16K02736
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
久野 マリ子 國學院大學, 文学部, 教授 (90170018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 首都圏方言の古層 / 東京都下方言 / 音韻 / 東京方言の古相 / 連母音の融合 / 場面差 / 母音の無声化 / 直音化 |
研究実績の概要 |
平成元年(1989)から平成4年(1992)にかけて調査された東京都下のデータが収集されたままになっていた。これらをもとに、『新東京都言語地図』を作成し、発表した。東京方言の伝統的特徴を示す162項目、高年層と青年層の分布図である。 首都圏方言の古層を明らかにするには、伝統的な東京方言の実態を明らかにする必要がある。この資料は明治35年~昭和3年生まれの生え抜きの高年層の話者と、昭和42年から昭和45年生まれの青年層の話者について、対面聞き取り調査した資料である。両親もしくは少なくとも一方の親がその土地の出身で、言語形成期をその地で過ごした男性の話者に限定した話者から得られた資料は、平成の世の東京都方言の実態を反映している。調査音声資料が残されている。 とりわけ、高年層の話者のデータは貴重で、現在では、すでに明治生まれの話者に話を聞くことは不可能である。当時の東京都下の方言を記録した音声資料を公表することは、東京方言の実態、首都圏方言の研究に大きな価値を持つと言えよう。 音韻の項目については、伝統的な音声特徴の年代による差を明らかにした。例えば、ヒとシの混同や、直音化は青年層では消えかけている。連母音の融合では、体言よりも用言の方が融合しやすい。形容詞では場面により青年層で融合形が増加することが指摘された。例えば、「大根」は連母音が融合したデーコンと発音する話者は青年層ではほとんどみられなかった。一方、「痛い」では、とっさの場合に発音するとき、イテーと発音する話者は青年層の方が高年層よりも多く観察された。ただ「痛い」の場合は、イテーと答えた話者は高年層の方が多く、青年層では減っていた。このことから、場面差による連母音の流合が青年層では若者ことばとして広まりつつことあることが予測できる。 引き続き、足柄上郡出身の明治20年代生まれの話者によるライフヒストリーの文字化作業も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度から始めた『新東京都言語地図ー音韻編』を作成した。地図を作成するために編集方針や統一事項の検討に思いの外時間がかかった。データ保存のサーバーの不調も作業の進行に影響があった。引き続き、アクセント編を作成中である。今年度中に可能であれば、文法、語彙、言語意識の項目についても地図を作成したい。神奈川県足柄上郡高年層話者のデータ文字化作業を引き続き行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度から始めた『新東京都言語地図』を引き続き作成する。今年度はサーバーの管理を専門家に依頼して作業がスムーズに進むようにしたい。今年度は、アクセント編を作成する予定である。可能であれば、文法、語彙、言語意識の項目についても地図を作成したい。また、一昨年度から続けている神奈川県足柄上郡老年層の自然談話データの文字化作業を引き続き行っている。コーパスとして活用できるようにデータ設計を検討する。また既に得られた首都圏方言の資料の実態を確認するために補完調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に研究成果の一部『新東京都言語地図』を作成したため、その他の費目が超過した。旅費は調査値が近郊であるためと、海外旅費が家人急病のため取りやめとなり執行額が少なくなった。今年度は、引き続き『新東京都言語地図』のアクセント編を作成する。その作成と検討のためサーバーの管理、データ追加技術料などが必要となる。『新東京都言語地図』は、進捗状況によっては、文法・語彙・言語意識の項目について言語地図を作成する。神奈川足柄上郡の談話資料の文字化を完成させる。『新東京都言語地図』において必要な地点の補充調査を行う。
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