平成30年度科学研究費(基盤研究C)「音声資料の発掘と収集による首都圏方言の古相の解明」では次の研究を行った。 また『新東京都言語地図 アクセント』(2018:久野)では、東京言語調査研究会が平成元年~4年にかけて東京都270地点の高年層・青年層の調査結果をまとめた。その結果、様々な新しい知見が得られた。例えば、山の手ことばと下町ことばの対立事象として有名な「坂」のアクセントがある。「坂」が頭高型のアクセントは下町、尾高型は山の手とされている。『新東京都言語地図 アクセント』の分布図では尾高型は東京都全体に広まり、多摩地区や島嶼部に分布する。頭高型のアクセントは下町地域に13地点分布し、あたかも従来の説を裏付けるかのようである。しかし、この調査の調査地点に入れられなかった神奈川県川崎市では「坂」を頭高型に発音することがわかっているから、頭高のアクセントを下町の特徴ということはできない。東京都だけでなく、首都圏方言を明らかにするためには南関東方言での調査が必要であることがわかる。 本研究では、『新東京都言語地図 音韻』(2017 久野研究室)の地図化によって、東京都の高年層の方言実態が明らかになった。しかし南関東方言全体の実態が必要であり、さらに南関東方言の古相が消滅の危機に瀕していて、75歳以上の高年層で確認できる最後と言ってもよいチャンスであることがわかった。特に音韻アクセントの調査は話者が健在な中に行われなければ永久に失われてしまう。また、首都圏若年層にみられる第2拍の撥音が中和する新しい音変化現象について2000名程度の資料を収集した。 さらに、明治生まれの神奈川県井口村の古老の音声のデジタル化と標準語書き起こし作業を継続した。その結果から、現在の関東方言より連母音の融合がはるかに規則的に起こること、一人称代名詞、フィラー、終助詞の用法に古層がみられることが明らかになった。
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