研究課題/領域番号 |
16K02740
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
田島 優 明治大学, 法学部, 専任教授 (80207034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 挨拶表現 / 感謝表現 / 別れの挨拶 / 近世 / 江戸 |
研究実績の概要 |
昨年度(平成28年度)と同様に、挨拶表現のデータを得るために、本学図書館に所蔵されていない書籍や、手元において活用したい書籍の購入を行った。例えば、太平書屋から刊行されている人情本の影印本や、黙阿弥全集を購入した。刊行されていない文献については、所蔵されている研究機関に出かけて調査を行った。なお、本研究に近い分野である感動詞の研究に関する科研による発表会があったので、情報を得るために、その研究会にも参加した。 平成29年度は、江戸時代の人情本や洒落本を読みながら、データ収集の作業を実施した。また昨年度調査の遅れていた上方の用例収集のために、上方の洒落本を用いてデータ収集を実施した。2年間の調査によってかなり多くのデータが集まったが、まだ整理することができていない状況である。 平成29年度は、本研究に関する論文を2本執筆し、研究発表として台湾の銘傳大學における国際学会に参加して口頭発表を行った。またこの学会における発表内容を纏めた論文集にも執筆した。 本年度に明らかにしたことは、関西で使用される感謝表現のオーキニと同じ語形が江戸にも見られたが、両者に意味の異なりがあることを指摘した。ただし、論文執筆後の調査によって、若い世代では関西と同様なオーキニ使用も見られたが、後世の状況からいえば定着できなかったようである。これについては、次年度以降の課題とした。また感謝表現においては、現代もよく使用する断り表現を伴った感謝表現が江戸後期に既に使用されていたことを明らかにした。また別れの挨拶においては、サラバからサヨーナラの間にゴキゲンヨーの使用があり、このゴキゲンヨーによって、別れの挨拶表現が去る側だけでなく見送る側の表現ともなった。そしてサヨーナラによって去る側も見送る側も同じ表現形式を使用できる状況ができたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29度は、研究計画に記したように、江戸時代後期の江戸における挨拶表現の調査を昨年度(平成28年度)に引き続いて行った。主として、人情本や洒落本における挨拶表現の抜き出し作業を実施した。その結果、人情本刊行会本全28巻における興味ある用例を抜き出すことができた。また洒落本大成をもとに江戸ばかりでなく、昨年度遅れていた上方の用例の抜き出しも行うことができた。これによって、昨年度の遅れを取り戻すことができ、当初の研究計画通りに研究を進められている。 これまでの調査を通して、自分自身において以前は気がついていなかった現象や、これまでの研究であまり言われてこなかった問題も見つけることができた。今後の研究課題として、いくつかの興味深いテーマをいくつか提出することができた。 本年度(平成29年度)の研究成果として、論文2編、学会発表1件、発表に伴う発表原稿集1件を公表することができた。平成28年度の論文と合わせて、論文3本を公にしている。 文献調査に関しては研究計画通りに進んでいるので、平成30年度はこれまでの文献によるデータ整理の継続と、特に平成31年度以降地理的な解明に必要な方言調査を重点的に行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に計画した研究の結果、これまでは人情本や洒落本のデータによって、当時の状況を解明できると思っていたが、江戸時代は長期にわたること、また位相によってことばが異なることから、上方については浄瑠璃や噺本の調査が、また江戸においても噺本の調査に加えて、黙阿弥の幕末から明治時代初期における歌舞伎からの用例の採集の必要性を感じた。それらの調査も方言調査に加えて徐々に進めていきたい。 平成30年度には研究計画においては、方言調査を行う予定になっている。大学の用務と重ならずに調査を行える時期と、その時期に調査の可能な地域などを吟味して、その地域の教育委員会と連絡を取り合って、調査を実施していきたい。 平成29年度の研究によって、次のような課題が見つかった。(1)感謝表現オーキニの使用はこれまでは明治時代以降と言われていたが、江戸時代の上方の用例が見つかった。ただし、遺作を江戸後期に刊行したものであり、作者の生存時においてもオーキニが使用されていたのかどうか、写本について調査を行いたい。また、江戸においても江戸時代にオーキニの用例が見つかった。上方とは異なり、江戸において定着しなかった理由を考えていきたい。(2)スミマセンが謝罪表現になった過程について、スミマセンは最初は自分の気がおさまらないという場合に使用されていたが、次第に「相手に対してスミマセン」というように使用されるようになったことにより謝罪表現になってきた。この過程を人情本を用いて明らかにしていきたい。さらに、スミマセンは明治時代以降感謝表現としても使用されていくが、その過程についても明らかにしていきたい。(3)同じ表現の繰り返すとして奇妙に思われるオヤスミナサイについて、また語源的におかしなオカエリサイについても明らかにしていきたい。 これらの課題の解明に向かって、研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を多く申請していたが、学会開催地近くでの調査については、学会終了後に調査を行い、大学の予算でまかなった。予定していたよりも大学の用務が多く入り、思うように調査にでかける機会に恵まれなかった。そのため、メールで確認できるような点については、メールで済ませた。ただし、本調査の際にその点についても再確認する予定でいる。 以上のような理由で、旅費として使用する心づもりでいた予算を使い切れなかった。その分を、文献調査をしていてどうしても必要な書籍が出てきたため、その購入にあてたが少額ではあるが残額が出てしまった。 その残った額がわずかであることから、今年度の予算と合わせて、研究をさらに進める上で必要となってきた文献の購入に当てようと考えている。
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