研究課題/領域番号 |
16K02741
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
真田 治子 立正大学, 経済学部, 教授 (90406611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本語学 / 計量言語学 / 語彙論 / 結合価理論 / 哲学字彙 / 近代語研究 / 井上哲次郎 / 学術用語 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の見出し語について、(旧)東京大学初年次で教科書として使用されていたJevons著『Elementary lessons in logic』の本文全文との照合を行った。『哲学字彙』の見出し語の派生形まで含めるとJevonsの著書の約34%の語彙が『哲学字彙』と一致しており、わずか99 ページの辞書にも関わらず、『哲学字彙』は効率よく術語を収集していることが確認できた。Jevonsの著書はその後、複数の翻訳や講義録が出版され、日本における論理学の源流となっているが、『哲学字彙』はこの論理学の基本的な術語を収録し現代日本語に伝えたという意味で、側面から近代の学問の形成を支えたと考えられる。実質的な第三版である『英独仏和哲学字彙』の編者である井上哲次郎と元良勇次郎が辞書改訂の際に使用した自筆書き入れ本について、その見出し語部分の翻刻を行い、第三版への継承の様相を検討した。書込みから採用されたのは主に三版の本編までで、補遺の部分には別の検討資料が存在した可能性がある。これらの問題については引き続き調査を行う。また語彙が文構造全体に与える影響を計量的に把握するため、日本語の品詞構成比率を扱った「樺島の法則」に着想を得て名詞比率を基準とした異なり語数・延べ語数の関数や、海外の計量言語学者によって研究されてきた「Menzerath-Altmannの法則」(言語の語、節、文、文章などでより大きな構築物はより小さい構成要素から成るという経験的法則)について、日本語の節、項・付加詞等、形態素の間の計量的関係などを調査した。語彙と構文に関する計量言語学的モデルを構築し語彙史研究に生かすべく、引き続き検討を進める予定である。成果は近代語学会編『近代語研究』、全国大学国語国文学会編『文学・語学』、国際計量言語学会2016年大会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は東京大学初年次の教科書の1冊を取り上げ、その全文と『哲学字彙』見出し語との照合を行ったが、調査結果から『哲学字彙』は効率よく術語を収集していることが確認できた。また明治後期の三版の編纂過程を編者自筆書き入れ本から再現することを試みたが、初版と異なり、複数の協力者が学術用語の候補を提供していた可能性が見られた。これらの成果から、研究課題のテーマである、明治期の学術用語が高等教育における術語から一般的な現代日本語の語彙へ浸透していく様相の、ごく初期の動きをとらえることが出来た。また日本語の語彙では初めての成果となる「Menzerath-Altmannの法則」でも一定の知見が得られ、これまでほとんど研究が行われてこなかった、語彙が文構造全体に与える影響についても計量的な手法で実証できた。順調に調査結果が得られ、成果発表が出来ていることから、計画申請時に想定した研究の方向性は正しかったのではないかと考えられ、研究計画全体も順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の学術用語と、明治初期の高等教育で教科書として使用された洋書との照合や、編者の翻訳・執筆した著作物との関係について調査を行う。また語彙の計量的分析手法の開発については引き続き『現代日本語書き言葉均衡コーパス』や結合価辞書を使った解析を進め、2018年国際計量言語学会大会等での発表に向けて準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は9月にチェコで行われる第2回自然言語技術と応用国際ワークショップ(Fedcsis2017-LTA2017)に参加する予定である。2017年1月に残額を確認し、航空券購入で2016年度の残額を全額支出する見通しを立てた。2017年1月に既に立替え払いを行っており、出張が完了した後、支出申請を行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、国際学会に参加するための旅費の支出を予定している。この他、引き続き語彙データや辞書データの比較調査を行うため、それらに必要な資料の複写費、資料整理や英文校閲のための費用などの支出を計画している。
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