研究課題/領域番号 |
16K02741
|
研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
真田 治子 立正大学, 経済学部, 教授 (90406611)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 日本語学 / 計量言語学 / 語彙論 / 結合価理論 / 哲学字彙 / 近代語研究 / 井上哲次郎 / 学術用語 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の付録「清国音符」について、『哲学字彙』編者の井上哲次郎が留学中に記述した日記を調査し、その中の外国人名の漢字表記との照合を行った。また当時の漢文教育の影響を考慮し、井上哲次郎とほぼ同時代の阪谷芳郎の予備門時代の漢作文を調査し、その中の外国人名の漢字表記とも比較した。先行研究で検討された森鴎外の漢文日記中の外国人名の漢字表記の方法とも比較を行った。「清国音符」の元々の収録の目的には諸説あるが、この比較調査の結果、漢文中の西欧固有名詞を読み解く場合よりも、ラテン文字で書かれた固有名詞を漢字表記する場合の方が利用しやすいことが明らかになった。また、20世紀初頭に上海で出版された学術用語集はその一部に『哲学字彙』の見出し語を『哲学大辞書』を経由して収録しているが、この辞書は他に、Cousland (1908) An English-Chinese Lexicon of Medical TermsとMateer (1910) Technical Termsからも見出し語を採集していることが確認され、当時の学術用語やその訳語を集めた語彙集の構築方法の一端が明らかになった。また照合の結果、Mateer (1904) Technical Termsは参照されていないことが明らかになった。今後は『哲学字彙』の見出し語の選定目的について引き続き検討を進める。また語彙と構文に関する計量言語学的モデルを構築し語彙史研究に生かすべく検討を進める予定である。今年度の成果は近代語学会編『近代語研究』、近代東西言語文化接触研究会編『或問』で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は特に『哲学字彙』の付録「清国音符」に着目し、編者井上哲二郎の日記の中での用字法や、井上とほぼ同時期に教育を受けた森鴎外や阪谷芳郎の用字法とも比較した。「清国音符」は、当時どのように利用されたのか、どのように利用することを想定して編者が付録としたのか、判然としない部分が多く、これまで議論が続けられてきた資料であるが、今回の調査ではラテン文字で書かれた固有名詞を漢字表記する場合を想定した可能性がかなり高いと思われる。また『哲学字彙』の見出し語が、上海で刊行された学術用語集に採録されたように、明治初期の学術用語が次の辞書への転載で、海外も含め広まっていく様子が確認できた。順調に調査結果が得られ、成果発表が出来ていることから、研究計画全体も順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の学術用語と、明治初期の高等教育で教科書として使用された洋書との照合や、編者の翻訳・執筆した著作物との関係について調査を行う。また語彙の計量的分析手法の開発については引き続き『現代日本語書き言葉均衡コーパス』や結合価辞書を使った解析を進める。成果は順次Journal of Quantitative Linguistics(国際計量言語学会・学会誌、インパクトファクター付)や『近代語研究』第21集(査読有、2020年度刊行予定)への投稿に向けて準備を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は7月にポーランドで行われる国際計量言語学会大会(Qualico2018)に論文が採択され、口頭発表を行う予定である。また9月にポーランドで第3回自然言語技術と応用国際ワークショップ(Fedcsis2018-LTA2018)に参加する予定である。2017年度後半に残額を確認し、航空券購入で2017年度の残額を全額支出する見通しを立てた。2017年度中に既に立替え払いを行っており、出張が完了した後、支出申請を行う予定である。
|