学術用語集『哲学字彙』は、日本語の抽象語彙の近代から現代への語彙構造形成の重要な通過点として研究が進められてきたが、その成立過程や編纂の目的については不明の部分が多かった。『哲学字彙』と洋書教科書との関係、『哲学字彙』の付録の調査、編者の書き入れと改版との関係など、本研究の成果は『哲学字彙』の成立が明治初期の大学教育と深く関わっていた可能性を示唆している。また本研究が導入した調査方法は、研究上で近しい資料を照合するこれまでの手法と異なり、辞書編者の明治初期の勉学の状況を背景として辞書の用途に着目している点が社会言語学的で、日本語学の近代語研究では新しい手法といえる。
|