研究課題/領域番号 |
16K02747
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
高村 めぐみ 愛知大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (10551111)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 韻律 / 機能 / 音声指導 / 機能別・韻律の指標 / 大学場面 / 日本語学習者 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、研究実施計画に基づき、以下の三つを行った。 第一に、平成28年度に課題としてあがった「機能判別のキーとなった文節」の抽出を行った。これは、長い文節から成る発話の場合、どの文節が機能判別に最も影響を与えたかを予め調べ、その文節に絞って音響解析を行ったほうが効果的、効率的であると推測し行ったものである。資料には、各機能に相応しい韻律を持つと判断された音声資料(日本語学習者向け聴解CDより採取、全12機能76発話)を使った。日本語母語話者2名に、1文節ずつ切りながら音声資料を聞いてもらい、どの文節が機能判別のキーとなったかを判断してもらう聞き取り調査を行った。そして、キーとなった文節の音響解析を行った。その結果、6機能(謝罪、挨拶、依頼、呼びかけ、否定、申し出)に固有の韻律的特徴が見られた。 第二に、第一の研究で得られた機能別・韻律的特徴の信頼性を高めるため、7名(演劇経験がある大学生1名、一般大学生4名、プロの声優2名)による15機能20種類×3パターンの会話(2~3ターンの会話。1ターンあたり約10音節)の録音を行い、音声資料を作成した。昨年度採取した一般大学生20による音声資料は、日本語母語話者3名に「聴覚印象で機能に相応しい韻律である」とは認められなかったため、新たに演劇経験者、声優が自然さを意識した発話を含め、音声資料を作った。そして、日本語母語話者5名に機能に相応しい韻律であるか4段階で評価してもらった。その結果、4段階中最低の1(=機能に相応しくない韻律)の評価がつかず、かつ7名中3位までに入った計180資料を音響解析の対象とした。 第三に、180資料のF0、音圧、持続時間長を測定した。当初は句、あるいは文節ごとにF0、音圧、持続時間長を計測する予定であったが、句、文節単位では機能ごとの顕著な韻律的特徴が見られなかったため、音節単位で計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、所属機関が変わり、研究に費やす時間の確保が難しかったことが、やや遅れている理由として挙げられる。 また、音声資料を採取する対象を大幅に変更した点も遅れの一因となっている。当初は一般日本人の音声のみを対象に、機能ごとの韻律的特徴を探る予定であったが、上述したように、聴覚印象で機能に相応しい韻律で発話されているとは言い難い音声資料が含まれていると判断されてしまった。そこで、演劇経験のある大学生とプロの声優の音声を採取する必要が生まれ、適任者を探すのにやや時間を要することになった。 さらに、音響解析についても、当初は句、または文節単位でF0、音圧、持続時間長を計測する予定であった。だが、パイロット研究を行った結果、句単位でも文節単位でも、機能別の韻律的特徴が際立って認められたわけではなかったため、より小さい単位である音節単位での計測に変更をした点もやや遅れている理由として挙げられる。計測項目については、F0最大値、音圧最大値、持続時間長のほかに、F0最小値、音圧最小値を加え、F0変動幅、音圧変動幅、調音速度を算出した。そのため、音響解析にも長い時間を費やす結果となった。 以上の理由により、研究全体から見るとやや遅れがある。だが、これらの研究を加えたことにより、最終的には機能別の韻律的特徴がより明確に解明されるものと考える。さらに、「研究実績の概要」の第一で述べた「機能判別のキーとなった文節」に関する研究を行ったことにより、会話スクリプトを作成する際、1ターンあたり1~2文節(10音節程度)から成る発話に限定して作成することが出来た。したがって、この研究は、全体から見れば今後の研究をスムーズに進めるのに役立つプロセスであるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の三つのことを行う。 第一に、音節ごとに音響解析を行った180資料について詳しい分析を行う。聴覚印象で各機能に相応しいと判断された音声資料内に共通する韻律的特徴を探る。その際、統計的手法を援用する。研究実績の概要の第一で述べた研究(平成28年度に日本語学習者向け聴解CDより採取した音声資料を使った分析)では、12機能中6機能に韻律的特徴が見られた。だが、市販教材を使っているため、この研究では一発話につき1名の音声資料しか採取することが出来ず、個人的要因を排除することは難しい。そこで、今回は複数(3名)の話者の発話を分析し、そこに共通する機能別韻律的特徴を探るという方法をとる。 第二に、「機能別・韻律の指標(試用版)」を作成することである。そして、この指標を用いて、日本語初級学習者に対して音声指導を行う。当初は、指標を用いた音声指導を受けた実験群と、従来の韻律構成要素別、あるいは文型別の音声指導を受けた統制群に分けて指導を行い、それぞれの発話データを採取し、聴覚印象、および音響音声学的見地の2つの側面から両者を比較し、統計的手法を用いて結果を示す予定であった。しかし、平成29年度より所属機関が変わったため、初級日本語学習者のデータ数を確保するのが難しい可能性が生じた。もし、十分なデータ数の確保ができない場合は、指標を用いた音声指導の前後に学習者の発話データを採取し、両者を比較することで、どのような変化があったかを記述する。指導前後の変化を記述するだけでも、効果を示すことは出来るものと考える。 第三に、指導の結果と学習者の内省を踏まえて、「機能別・韻律の指標(完成版)」を作成する。最終的には、日本語学習者への音声指導に有用な指標を完成させ、教育現場での具体的な使用方法について示すことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、採取した音声資料の信頼性を確保するための聴取実験を量的研究により行う予定であった。しかし、聴覚印象についての詳細なコメントや意見が必要であると判断したため、少数の聴取実験協力者による質的研究に変えて行った。そのため、人件費が大幅に減ったことが次年度使用額が生じた理由である。また、海外での研究成果発表を予定していたが、諸事情により発表をすることが出来なかったため、それも次年度使用額が生じた理由の一つである。 次年度は、日本語学習者の音声を資料にした聴覚実験を行うため、その謝礼として使用する計画である。さらに、海外での研究成果を発表する予定があるため、そこで使用する計画である。
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