本研究の課題は、認識的モダリティ形式の多義性を体系的に記述することにある。認識的モダリティ形式は、認識的モダリティとして真偽不定の内容について述べる場合に用いられるだけではない。真であることが確定した内容について述べる場合にも用いられ、後者の場合、発話の仕方(談話情報の捉え方)を表す機能を担うと考えられる。 この研究課題を達成するために、本年度は、「かもしれない」「はずだ」「ようだ」「らしい」「だろう」のうち、「だろう」と「かもしれない」に注目し、両形式の多義的な意味拡張のありようについて、とくにその共通点を探ることを目的に考察を行った。考察の結果、両形式の多義的意味拡張のあり方の共通点として、認識の在り方と発話の仕方という2つの用法に重なりが存在するという点、また、認識/発話主体の把握のあり方に関し、並行的な形で変更が生じることで多義性が生じるという点が指摘可能であることが示された。 また、「はずだ」の多義性については、前年度からの継続として考察を進めた。「はずだ」と「べきだ」は、通時的な意味変化の中で両形式の区別が困難なほど意味が近似していた経緯からみても、またどちらにも当然という概念がかかわるという点からみても、類似度が高い。このように類似度の高い「べきだ」と比較を行うことで、「はずだ」の正当性の主張という発話の仕方に関わる意味は、認識的モダリティを表す「はずだ」が、当為評価のモダリティを表す「べきだ」とは異なる意味を持ち、その特徴の一部を保持して拡張したものとして記述可能であることが示された。
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