研究課題/領域番号 |
16K02752
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 英光 北海道大学, 文学研究科, 特任教授 (10142663)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 間接指令文 / 命令文 / 動詞分布 / 依頼 / 勧誘 / 項構造 |
研究実績の概要 |
2012年に英語命令文の包括的な認知言語学分析を刊行したが、本研究課題は、命令文の類義表現と言える英語の間接指令構文15の包括的認知言語学的分析を行うことにある。その目的は、(i)間接指令構文15タイプの各々の認知言語学分析を完成させる、(ii)間接指令文と命令文および間接指令文同士の共通点・相違点を明らかにする、(iii)指令表現の包括的言語的特徴を解明する、の3点である。 初年度に当たる平成28年度では、まず平成25~27年度に収集済みのデータの整理と改良を行った。さらにI wonder if you 構文とI’d appreciate if you 構文の比較研究を公開した。また、Can you構文の分析を進める一方で間接指令文と命令文の違いが如実に表れる受益二重目的語構文の命令文の適格性と間接指令文の不適格性を説明した。加えて、日本語の命令文と依頼文の動詞の分布と談話用法の調査を行い、例外的命令文の大部分は日英語で共通だが日本語の命令形の拡張用法は依頼形のそれより広範囲にわたり、依頼形「くれ」の授与の概念とくに「受益者・受容者としての話し手」の概念がこの形式の用法拡張を制限している可能性を指摘した。また、コーパス検索によると日本語の働きかけの表現の中では一般に「待つ」の生起頻度がもっとも高いことも明らかにした。これらの観察結果は、日本語の多様な指令形式の間には、英語の指令構文の場合と同じように、命題内容の相違があることを示唆する。最後に、指令表現選択と聞き手に課せられるコストと義務の相関関係を力の作用・反作用を認知言語学のイメージ・スキーマ分析を用いて説明した。以上の成果は、近刊の単著書『英語の命令文 神話と現実』(くろしお出版、2017年6月出版)の第4章、第7章、第8章にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究スケジュールでは、初年度(28年度)に平叙文型間接指令構文、I want you to、I need you to、I’d like you の分析を行う予定であった。しかし実際に調査分析を進めて行くと、最終年度(31年度)に予定していた分析を前倒しする必要が生じた。理由は、間接指令文の個々の構文の詳細な特徴付けを進める前に英語の間接指令文と命令文との一般的な違いと、日本語の指令文(あるいは「働きかけの文」)との一般的な違いを明らかにすることにより、英語の間接指令文の特性を対照言語学的な視点から分析することが可能になるためである。その結果、間接指令文には命令文が有する独特の感情表出性と非指令用法がきわめて貧しいこと、常識的理解や英文法や語用論の教科書の説明とは逆に間接指令文は純粋な行為指示表現(directive expression)であること、英語の指令文ではtellがもっとも頻度が高い動詞だが日本語の命令文と依頼文では「待つ」という動詞がもっとも使用頻度が高いこと(「(ちょっと)待ってください/(ちょっと)待て/待ちなさい」など)が判明した。 このことから申請者の「異なる指令文は英語のみならず日本語でもポライトネスだけではなく動詞分布と命題内容に違いがある」という作業仮説が裏付けられる結果が得られた。以上の知見は当初の計画を大きく上回る研究成果であり、今後の研究を大いに促進するものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では使用頻度が高い疑問文型のCan you、Could youと Will you構文の調査分析を進め論文にまとめていく。そこでは動詞の分布、動詞の使用法(とくに項構造)、談話用法、他の指令構文との役割分担を詳細に調査する。その後、30年度には残りの疑問型のWould you、Why don’t you構文と平叙文型のI want you構文および使用頻度が低いI need you to、I’d like you to構文、さらに否定型の間接指令文(Won’t you, Can’t you構文など)へと調査を進めて行く。 平成29年度には、日本英語学会春季国際フォーラム(明治学院大学、東京、2017年4月22-23日)にて招待講演、国際認知言語学会第14回大会(University of Tartu、Estonia、2017年7月10-14日)にて口頭発表、国際語用論学会第15回大会(Belfast Waterfront Conference Centre、Ireland、2017年7月16-21日)にて口頭発表、およびシンポジウム『認知言語学と語用論』(成蹊大学アジア太平洋研究センター・プロジェクト「認知言語学と新領域開拓研究」、2017年8月29日開催)にて招待講演を行い、当該研究の成果を随時発表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した図書がペイパーバックで入荷したために予想より低価格となり次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度に必要な図書購入に当てる。
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