行為指示、つまり他者に依頼、命令、提案などをする行為、はもっとも重要な言語コミュニケーションの一つである。本研究の目的は、(i)英語で行為指示に使われる主要な指令構文について動詞の観点から認知言語学分析を行い、(ii)間接指令文と命令文および間接指令文同士の共通点・相違点を明らかにし、(iii)指令表現の包括的な言語的特徴を解明する、の3点にある。 2019年度(令和元年)には、Will you構文、Can you構文、Why don’t youと Why not構文の比較、Can't youと Won't you動詞の構文、I want you to構文、のコーパスに基づくデータ収集と分析を完了し、その成果の一部を認知言語学に分析した。研究成果は、以下の4点に要約できる。(i)間接指令文各々の使用頻度の高い動詞はそれぞれ異なるが、依頼型の構文と提案・助言型の構文の間で一定の体系的違いがあることが判明した。(ii)一般にサイズが大きな構文ほど使用頻度が低く、大きな負担を課すが聞き手には応じる義務がない場合が多い。(iii)英語命令文の tellとgiveで顕著であった「動詞+1人称目的語」構造は、多数の間接指令(行為指示)文にも見られるが例外(Why don't you構文の give)もある。(iv)ある構文(例えばWill you構文)ではcomeが goより使用頻度がはるかに高い事実は認知言語学のイメージ・スキーマの違いで説明できることを示した。(v) 申請者の仮説「行為のコストが高いほど、さらに聞き手が応じる義務が低いほど、指令構文はより間接的かサイズが大きくなる」(Takahashi 2012: 110)の妥当性が豊富なデータにより裏付けられた。これらの実績により、行為指示研究と動詞・項構造研究をつなぐ新しいインターフェイス研究の道が開かれた意義はきわめて大きい。
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