英語のtough構文の統語派生の分析を行い、名詞句DPそのものではなくその内部のNP、すなわち述部機能を持つNP要素の移動に基づく派生が原理上可能であること、そして、この派生方法によって、本構文特有の現象(例えば、tough構文の主語名詞句に含まれる数量詞や束縛代名詞の解釈に関して再構築化の非対称性があること、主語名詞句の出所に関して主語条件的な性質があること、本構文の補部節は不定詞型に限定されること、出所が不定詞補部節の主語の場合は能動形と受動形とで非対称性があること、虚辞やイディオムが主語に昇格できないこと)が一様に導出できること、および、本構文の派生過程と不定詞関係節の派生過程(上昇promotion分析)に共通部分があることにより両構文の統語的性質の類似性が説明できることを示した。 平行して、例えばHicks (2009)のSmuggling分析(空演算子素性を持つ述語Nがその補部にDP1を選択し、この[N DP1]を包含する名詞句全体がAバー移動を受け、その後、DP1が単独で移動するという分析)については、コントロール構文におけるPROのアイデンティティの問題および多重tough構文における先読み(look-ahead)問題を挙げて、本研究で提案する述部NP移動の優位性を示した。 tough構文に関する本研究で示した「DP内の述部NPの移動」は、既に本研究計画全体の前半段階で明らかにしたthe alleged millionaire等の形容詞的受動形における述部情報(この例ではa millionaire)の外在化やa wannabe guitaristにおける述部情報(a guitarist)の外在化の統語プロセスと類似した統語操作であり、両者の一元的な説明が可能となった。
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