研究課題/領域番号 |
16K02756
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
仁科 弘之 埼玉大学, 教養学部, 教授 (20125777)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 身体文法 / 書き換え規則 / 構成的意味論 / ラムダ式 / ラジアン |
研究実績の概要 |
本研究では、言語起源をヒトの運動(動作)能力に求めて、動作文法の端緒になる規則系を構築しようとするものである。動作生成には模型ロボットを用い、その各種動作を生成する運動計画(motion planning)のデータを元に文法を構築してきた。前回の科研費研究でえられた一応の書き換え規則群を、本科研費研究(昨年度分)において、見込みある書き換え規則に修正することができた。さらには、この統語構造に意味を割り当てることもできた。 四肢を表す骨格のそれぞれ(同士は等位接続関係をなす)は書き換え規則で表示可能な木構造をもち、「関節がそれより遠位の関節、端点に運動使役をもたらす」という命題を骨格の構成原理として仮定していた(一昨年度分の研究と前回の科研費研究)。この木構造を、この構成原理を直接に表すラジアンという概念で再構成した。すると、この木は複雑度は低いものの、Xバー理論の木概念と矛盾しないものであることが判明した(昨年度の研究)。この木構造の各接点は関節に相当し、更には、それら接点間の辺は身体部分(ひじ、うで、もも、すね等)に相当することもわかった。一つの運動の各姿勢における各関節の回転情報を、その姿勢を表示する木構造上の各接点に対して、それに相当する関節の回転の有無を、この使役関係に表れる「MOVE(移動)」と「KEEP(維持)」という意味素として割り当てる。それらの情報を、(統語規則によって導出された)木構造上の各接点に、構成的にボトムアップ方向に収集してゆく。この収集はラムダ計算によって行い、その結果は、各関節に、そこから端点までの運動使役の関係的意味が述語論理式の形で書き込まれる。 身体統語論に構成的意味論を組み込む目処が漸く得られた。身体文法構築が可能となれば、言葉の文法との複雑性比較が可能となり、ヒト言語の発生への身体動作の貢献のメカニズムへの見地が広まってこよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前回の科研費研究では動作動詞意味を外延的に研究した。動作を実体として捉えるために、各動作を「回転式(人体骨格上の各関節の動きの時系列上での相互関係)」で表し、このモデルと相対的に運動命題を評価すると各運動の表示としての様相論理式がえられた。 本研究における身体文法構築では、統語論と意味論の揃った文法的枠組みが要求され、統語表示上で最終的な意味計算が行われる必要がある。前回の動詞意味論研究では動作自体の(論理式による)外延的表示の実現を目標としたため、統語論の全貌に至る必要はなかった。 本研究の身体文法にとっては、統語論構築は骨格に依拠すれば可能でありその方法論自体には概念的問題は見当たらなかった。この統語論の生成する分析木は動作を構成する各区間姿勢の連鎖であるため、前研究におけるように各動作の外延を継時的に表示できないので様相論理も用いなかった。代わりに、運動命題にヒントを得て、各関節における運動状況(回転角度の付きのmove或いはkeepか)を分析木の接点上に書き込みそれらを木上でラムダ変換によってボトムアップに収集し、その区間の運動状態を計算するアルゴリズムを目指している。当初、「関節が関節(端点)を動かしめる(cause to shift)」という命題をそのまま表す生成意味論流の分析木を前提していたが、統語構造に実装することが困難であったため、単純化してcause to shiftをmoveに, cause to stayをkeepにと、統語論(分析木のラベルとしては)では一語に単純化しておくことでVPに匹敵する接点を得ることができた。そこには更に関節間の辺(上腕、下腕、腿、脛など)の(意味的な)名称をも実装することが可能になった。これらの豊かな意味情報を統語構造に基づき分析木上でボトムアップに収集する構成的意味論を実現できる見込みを得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果に鑑み、30年度は成果の発表に心がける。国際会議発表と論文発表を年度内に実現させ、本研究を承けた次の研究を策定して行きたい。この研究を次回の科研費研究テーマとしたい。 次回の研究の骨子 (1)区間間移行の表示の研究:本研究によって骨格運動の分析木表示は各区間の木表示については満足の行く意味論を備えた統語構造を構築することができる見込みを得た。これにより各区間の姿勢の記述が可能になったので、区間から区間への(姿勢から次の姿勢への写像)の表示方法の検討を行う。まず思いつく手法は次のようである。 (i) 分析木と分析木のあいだを変形規則のよって写像する。骨格がつくり出す可能な姿勢のすべてとは、それらは各関節の回転への参入順序の交替で決定されるので、各関節を主語に節を目的語にとる文同志の互いへの埋め込み順序の多様性に相当することになろう。(ii) 得られた途中の分析木も意味表示として有効な表示として数える、というやりかたである。開始から終点までの各区間の分析木はすべて意味表示として有効であり、これらは該当する動作が含む姿勢を表示することになる。 (2)運動の左右差と文法複雑性:本研究で当初計画に含めていた左右の四肢の運動差は本研究によって問題なく表示できるが、このような動作が文法の複雑度を高めるかどうかを確認することは次回の研究課題の一つである。 (3)分析対象動作の多様化:対象動作の種類を増やすことで分析の精密化を図りたい。そのためにはよりリアルな模型ロボットを用いることで分析木の精密化を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
機材購入を予定していたが、備品込み価格が残額を超えたため、新年度に持ち越した。新年度にこの残金を元にこの機材を購入する予定である。
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