研究実績の概要 |
本研究でわかってきた点を6つ上げる。1.PathPPは、獲得最初期から動詞なしで頻出し、述語として位置変化を表す。関連発話の大半は物を移動させてという依頼で、使役が潜在する。動詞は後から現れ、意味的弱動詞put, take, turn等から始まるが、位置変化の意味には貢献しない。2.獲得初期のPathPの大多数がtelicである(in, on, offなど)。atelicのaround, alongなどは多くなく、現れる場合も(単独)述語としてではなく、動詞と共起して副詞的に使われる。3.動詞の出現は、潜在的使役の意味を形式化する発達ステップが一因と考えられる。続いて様態動詞が増え(pull it away, throw it down, wipe it off, rub it out)、さらに、need, wantが現れる。Pが動詞と複合述語を構成するとは考えにくく、Pが一人前の述語でないと成立しない例である。4.light v+PathPPの獲得過程は、Levin and Rapoport (1988)のLexical SubordinationとTalmy (1985他)のsatellite-framing of Pathを説明する可能性がある(Suzuki 2017)。5.日本語の場所・経路は獲得最初期から動詞で表されることを確認(Suzuki 2004)。はじめに動詞が経路を表す述語として設定されるとそのままverb-framed languageとなると考えられる。6.関連するV-Prt-DP (句動詞構文) について。(i)獲得初期にはほとんど現れない。(ii)この構文にはV-DP-Prtに頻出する動詞take, put, pull, turnがほとんど現れない。獲得初期の段階では2つの構文は意外なほど異なる特徴を持ち、別々の出現理由を持つと考えられる。
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