研究課題/領域番号 |
16K02759
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
加藤 雅啓 上越教育大学, その他部局等, 特命研究員 (00136623)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 語用論 / 関連性理論 / 認知言語学 / 分裂文 / 時制 / 心的距離 / 事実性 / 焦点化構文 |
研究実績の概要 |
本研究は談話における日英語の焦点化構文(focus construction)に見られる統語的特性、認知的特性、及び語用論的特性を「コード化された意味」と「推論による意味」の観点から捉え直し、解釈の「却下可能性(cancelability)」を根拠に、統語論と語用論の棲み分けの妥当性を明らかにするものである。具体的には焦点化構文、とくに英語の it 分裂文、wh 分裂文、右方移動構文、及び日本語のハ分裂文、ガ分裂文のコード化された意味と推論による意味を考察し、焦点化構文に伴う総記的含意とその却下可能性を精査した後、焦点化構文に関わる文法体系の再構築を目的とする。 本年度は英語分裂文に関して、生成文法、関連性理論、認知言語学、機能文法のそれぞれの枠組みにおける先行研究を総括した。とくに関連性理論の観点からは、英語分裂文が果たす談話機能について、聞き手の想定形成にどのような影響を及ぼすか「最適の関連性」原理との関わりを検討し、先行文脈との意味的つながり、 もたらされる認知効果、及び処理労力との関連性を探った。認知言語学の観点からは、メトニミーリンクによる語義の拡張、パートニミー・トポニミーと 英語分裂文との関係を考察する。機能文法の観点からは、英語分裂文がもたらす談話機能について詳細に検討した。 これらの理論研究に基づく分析結果を総合的に検討し、英語分裂文が持つ統語的制約と談話機能の本質的な特性を明らかにし、談話における英語分裂文の認知プロセスと推論メカニズムの全容を総合的にとらえ、コード化された意味と推論による意味の関わりを明示的に解明した。この間、専ら統語的事象として考えられていた時制の選択には、心的距離と事実性という語用論的要因が密接に関わっていることが明らかになり、われわれが物事をどのように認識しているかということを時制の選択という観点から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は生成文法の観点からは、「移動に課される統語的制約」の観点から、英語分裂文の研究は文レベルにおける分析だけでは不十分であることを検討した。さらに中島(1995)の「主語からの外置」については統語論と語用論の棲み分けが必要である」という分析に注目し、統語論と語用論がどの ように役割を分担しているか考察した。この際、文文法と談話文法のインターフェースとして関連性理論の理論的背景を Carston(2002)に基づいて検討を行った。 言語資料の収集に関しては、(1)英字新聞、英文雑誌、英米文学作品、(2)電子コーパス 及 びインターネット上の言語資料集、英米文学作品に関するアーカイブを運営する Project Gutenberg (http://gutenberg.net/)から必要な資料を収集した。 さらに、専ら統語的事象として考えられていた時制の選択には、心的距離と事実性という語用論的要因が密接に関わっていることが明らかになり、われわれが物事をどのように認識しているかということを時制の選択という観点から考察し、学術論文「時制の選択ー心的距離と事実性ー」を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
統語論と語用論の棲み分けの妥当性を明らかにするため、英語の場所句倒置文,及び重名詞句移動構文(以下、右方移動構文と略記)を取り上げ、生成文法、認知言語学、関連性理論、及び機能文法の枠組みにより、[1] 文献による理論研 究、[2]言語資料の収集、[3]データベース作成の三つの方法によって研究を進める。 右方移動構文に関する関連性理論、認知言語学、及び機能文法のそれぞれの枠組みにおける先行研究を総括する。そのために、これらの分野における従来の研究文献を 包括的にサーヴェイする。 関連性理論の観点からは、右方移動構文が談話内で果たす談話機能と関連性理論との関わりを 検討する。また、中島(1995)の主語からの外置の分析に従い、右方移動構文に関する統語論と語用論の棲み分けという観点の可能性を考察する。 認知言語学の観点からは、右方移動構文に関わる認知言語学における推論メカニズムを考察する。機能文法の観点からは、右方移動構文がもたらす談話機能のうち、Ziv (1975)の「関係節命題の 前景化」説と Gueron (1980)の「提示文」説、高見(1995)の「情報の重要度」説等を取り上げて、 詳細に検討し、これらの分析の妥当性を検証する。 これらの分析結果を総合的に検討し、談話における右方移動構文の談話機能の特性,及び認知 プロセスと推論メカニズムを総合的にとらえ、これを明示的に解明する。言語資料の収集と分析、及びデータベース作成については、前年度と同様に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末に予定していた英国における文献調査、及び資料収集に関わる旅費が執行できなかったため、40万円を上回る未使用額が生じた。これは、受け入れ先であるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンからテロ等に巻き込まれないよう注意喚起をされたこと、及び2017年3月22日にロンドン国会議事堂テロ事件が起こったことにより、渡航を控えたことによるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は昨年度予定していた英国に加え、二言語併用国であるスイスにおいて、焦点化構文に関する文献調査、及び資料収集を行う予定である。受入機関と当該国のテロ情報等を勘案し、可能な限り早い時期(8月~9月)に渡航する予定である。
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