本年度は、リズム・メトリックスの一つであるnPVI(標準化配列間変動指数)を用いて話し言葉をベースにしたリズム類型論が歌の翻訳というプロセスを経ても維持されるかどうかの検討を通じて、テクスト・セティングとのインターフェイスにおいて観察されるリズム特性を明らかにすることを目指した。Hayes がまとめた英語の音節配置アルゴリズムは、英語の特徴として、強勢のある音節は強勢のない音節より一般的に長く発音されることを示しているが、歌でもその傾向が引き継がれると言える。ここにnPVIと音節配置アルゴリズムの相互作用を見ることができ、本研究はこの相互作用に注目して分析を進めた。 音楽史上ナショナリズムと呼ばれる時期に限定すれば強勢拍言語と音節拍言語という異なる言語リズムが器楽音楽に反映されているとする先行研究の手法に基づき、1949年から1964年までに英語から日本語に翻訳された歌を資料とし、nPVIを算出し日英語で比較した結果、発話におけるnPVIは強勢拍言語の英語のほうがモーラ拍言語の日本語より数値が高いという関係は、基本的に歌の翻訳においても維持されていることを明らかにした。また、例外となるケースについて個々に検討し、翻訳の過程で音符を伸ばし、その結果、休符が短くなりnPVIスコアに影響を与えたケースや、翻訳の過程で四分音符と八分音符の配列に変化が生じ、結果的にnPVIスコアに影響が及んだケースなど、原因と理由を明らかにすることができた。
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