本年度は、英語の好韻律性を探る一つの手段として、先行研究に基づき、発話における母音の長さの変動を示すnPVI(標準化配列間変動指数)を用いて、現代英語の歌から日本語への翻訳という過程においても「英語オリジナルのnPVIは日本語訳のnPVIと同等あるいは同等以上」が成り立つという仮説を実証するために、昨年度学会で発表した際のフィードバックをもとに研究内容にさらに磨きをかけた。 発話における母音のnPVIスコアはリズム類型論的に異なる英語と日本語の間で有意差があることが先行研究で明らかにされている。一方、nPVIを用いて言語と音楽のインターフェイスを扱った別の先行研究も参考にして、音符への歌詞の割り当てを英語と日本語の例で調べ、日英語でスコアに差が出る場合は該当箇所に詳細な検討を加えた。具体的には、音韻論におけるテクスト・セティング(韻律格子と音節のマッピング)の概念を導入し、英語については先行研究で提案されている音節配置アルゴリズムの適用有無をまず調べ、オリジナルの音符の配列が翻訳の過程で変更されるケースについては個別にその理由を探った。 本研究ではnPVIスコアを比較のための数値として用いたが、付随的に算出された平均値は、全てにおいて英語の数値は日本語のそれと同じかそれ以上を示し、これは音価の小さい音符が英語で多用されていることを意味する。歌詞における機能語の多用と小さい音価は関連づけられるので、比較のためのリズム・メトリックスとして今後は平均値も併用する。
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