研究課題/領域番号 |
16K02764
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
杉崎 鉱司 関西学院大学, 文学部, 教授 (60362331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動詞句削除 / 普遍文法 / 母語獲得 |
研究実績の概要 |
英語において、スルーシングと並ぶ代表的な省略現象として、動詞句削除が存在することが知られている。本年度の研究では、英語を母語として獲得中の幼児(3歳前後)が、動詞句削除の存在およびその制約に関して、成人と同質の知識を持つか否かについて、自然発話分析を通して明らかにしようとする私自身の研究を整理・発展させた。具体的には、「動詞句が省略されるためには主語と動詞の一致が必要である」とするLobeck (1995)やSaito & Murasugi (1990)の認可条件に英語を母語とする幼児が観察しうる最初期から従うとするSugisaki & Kurokami (2017)の発見を、さらなるデータをもとに補強した。さらに、日本語を母語とする幼児(5歳前後)に、日本語における動詞句削除の欠如に関する成人と同質の知識が備わっていることを示そうとした私自身の実験調査のデータを整理し、そこから導き出される理論的含意について検討を加えた。具体的には、「ぶたさんは急いで走ったけど、ゾウさんは走らなかったよ」のような付加詞を含む自動詞文に対して、幼児が「ゾウさんは急いで走らなかったよ」という解釈を与えることがないことをデータの分析によって導き出し、動詞句削除の欠如に関する知識が日本語を母語とする5歳前後の幼児の知識の中にすでに存在することを明らかにし、生得的な母語獲得の仕組み(普遍文法)の関与の可能性を高めた。これらの研究における発見をもとに、幼児がどのようにして目標言語における動詞句削除の有無を早い段階から知ることができるのかについて考察し、「ラベル付け」(Chomsky 2013など)の仕組みを用いた分析を提案した。 これらの成果を、東北大学におけるワークショップでの発表(2017年8月29日)、青山学院大学での招待研究発表(2018年3月1日)などで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、昨年度に中心的に実施したスルーシングの獲得に関する研究をさらに拡大・発展させ、もう一つの主要な省略現象である動詞句削除へとテーマを広げ、その獲得について、英語・日本語の両面から分析を行うことができたという点、またその成果を複数の機会に口頭発表することができたという点において、順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、これまでに得られたスルーシングの獲得に関する研究成果と動詞句削除に関する研究成果を比較・整理し、英語および日本語における省略現象の獲得について、包括的な理解が得られるよう、研究を進める。また、その成果を論文にまとめ、専門的な論文集などにおいて公表するとともに、成果を平易な表現で整理した論文も用意し、学部生や一般の読者にもその成果が伝わるような試みに取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の公表に関して、海外での研究発表を予定していたが、国内での招待研究発表を中心的に実施したため、次年度使用額が発生した。残額は、次年度の成果発表や論文・図書などの成果発表に関わる経費として使用する予定である。
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