研究課題/領域番号 |
16K02766
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大森 文子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (70213866)
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研究分担者 |
渡辺 秀樹 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (30191787)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メタファー / 寓意 / Shakespeare / 慣用表現 / Wilfred Owen / 戦争詩人 |
研究実績の概要 |
1808年にイギリスで刊行された寓意詩The Council of Dogsにおける表現の背景にある擬人化メタファーと寓意のメタファーの構造を探究した。動物寓意詩では、〈人間〉の概念領域から〈動物〉の概念領域への擬人化メタファー写像、〈動物〉から〈人間〉への寓意のメタファー写像という、反転関係にある2つのメタファーが機能していることを明らかにした。 2016年7月2日に日本語用論学会メタファー研究会(於京都大学)での発表に基づき、ShakespeareのSonnetsやRomeo and Julietにおける〈太陽〉の概念領域から〈心〉の概念領域へのメタファー写像について考察する論文を発表した。慣用表現メタファーを用いながら、日常的思考を越えた豊かな意味を表現に持たせ、読み手(聞き手)の想像力を活性化させるShakespeareの描写力を観察し、その背景となるメタファーの仕組を探究した。 研究代表者が所属研究科内で主催する言語文化レトリック研究会で、2016年11月4日に「戦争詩人Owenを読む」と題するセッションを開催し、研究代表者大森文子(認知言語学)、研究分担者渡辺秀樹(歴史言語学)、同僚の大阪大学准教授(英文学)が各自の学術的立場に基づき、戦争詩人Wilfred Owenの作品を多角的に分析した。当日の発表内容に基づき、Owenの “S. I. W.” の意味の構造を解明する論文を発表した。 研究分担者を代表とする研究グループで、2016年に大修館書店より翻訳書『英語コーパスを活用した言語研究』を出版したが、同じ研究グループで、Kay and Allan 著の新刊書English Historical Semantics(2016)の翻訳作業を開始した。本書は語彙意味論の立場から英語の語義拡張の過程を考察するもので、メタファーの歴史的研究に有用な研究書である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は英米詩人の作品に見られるメタファー表現群の構造を分析し、メタファー成立の背景となる認知メカニズムを共時的構造と歴史的連続の双方の観点から解明することであるが、本年度は、17世紀のShakespeare、19世紀の動物寓意詩、20世紀のOwenというように3つの時代の詩作品を分析することができた。研究代表者主催の研究会(2016年11月4日開催)では、認知言語学、歴史言語学、英文学の研究者が一堂に会してOwenの作品を分析するという多角的見地からの共同研究が成功した。また、同研究会(2017年3月10日開催)では、研究代表者・研究分担者の同僚の大阪大学准教授に小野十三郎のレトリックの研究発表をしてもらい、また歴史言語学を専門とする大阪大学名誉教授に、中世英国ロマンスとアメリカの通俗小説に共通に見られるレトリックについての講演をお願いした。これらの研究発表および講演からも、本研究課題の遂行に役立つ知見を得ることができた。このように、共時的視点と通時的視点の両方をもち、さまざまな文学作品に見られるメタファーの背景となる認知の仕組みの言語文化的多様性と普遍性を俯瞰的に追究するという本研究の目的に沿った研究方法の足掛かりを得たという点で、本年度の研究は概ね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
Wilfred Owenの作品を対象とした認知詩学的分析を継続し、国際誌への投稿を目指す。Shakespeareの時代(17世紀)から現代に至るまで射程を広くとり、さまざまな詩作品を対象として、メタファー成立の背景となる認知メカニズムの解明に向けて考察を深める。研究分担者を中心とした翻訳グループでKay and Allan 著のEnglish Historical Semantics(2016)の翻訳作業を進展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者、研究分担者を含む4名のグループの所属校で持ち回りで年6回開催している歴史的意味論研究会において、愛知教育大学で開くことになっていた2回分を本年度は大阪大学言語文化研究科で開催した。また、予定していた国立国会図書館等への国内出張を本年度は見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は研究分担者が連合王国で開催される国際中世学会にて研究発表を予定しているので、その旅費や資料収集の費用に充てる予定である。
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