研究実績の概要 |
本年度は、ShakespeareやWilfred Owenの作品を主たる研究対象として、認知詩学の見地から考察した。Shakespeareの作品については、Sonnets や Romeo and Juliet における〈太陽〉の概念領域から〈心〉の概念領域へのメタファー写像について考察し、シェイクスピアの〈太陽〉のメタファーは対象の眩い美しさを賛美し、幸福感を表現するという肯定的な意味だけではなく、危険、気まぐれ、容貌の衰えなど否定的な意味をも表し、メタファー写像の帰結として多様な感情が導き出されるということを論じた。Owenについては、第一次世界大戦の戦地に赴いた兵士の苦難を描いた“Storm”と題する詩を分析の対象とし、この詩の意味の構造、およびそこに作用しているメタファーやオクシモロンの働きについて考察した。その際に、この詩に出現した諸概念を扱ったOwenの別作品(“Anthem for Doomed Youth,” “Smile, Smile, Smile,” “Strange Meeting,” “Spring Offensive,” “Apologia Pro Poemate Meo,” “Beauty,” “The Last Laugh,” “S.I.W.,” “Dulce et Decorum Est,” “I saw his Round Mouth’s Crimson”)も並行して分析し、対比するという手法をとった。 さらに今年度は、英語メタファーの認知詩学分析の手法を日本文学にも応用し、連句(俳諧の連歌)にも注目した。連句が制作される場を文芸共同体のメンバーが構成する「座」と捉え、座に連なる人々が詩的談話を重ね、一つの作品に結実させていく様子を認知詩学の観点から観察した。松尾芭蕉と向井去来、野沢凡兆による歌仙「夏の月の巻」(『猿蓑』巻之五所収)の初折 18句を分析対象とし、メタファーやメトニミーといった認知プロセスが連句の共同制作者間の詩的談話に果たす役割について考察した。
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