研究課題/領域番号 |
16K02771
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
岩部 浩三 山口大学, 人文学部, 教授 (90176561)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英語総称文 / 認知能力 / フランス語総称文 |
研究実績の概要 |
英語総称文を元に立てた「認知能力の複合性仮説」(岩部浩三2016「総称文の多様性とと認知能力の複合性」(『英語と英米文学』51号)が他言語においても有効であるかの検証を行っている。 日本フランス語学会2017年度シンポジウム「総称文の対照言語学--英語・スペイン語・フランス語における総称」(6月3日東京大学駒場キャンパス)において英語総称文の研究発表を行うと同時に,スペイン語,フランス語との比較がその専門的研究者を交えて可能になるという絶好の機会を得た。シンポジウムの報告は2018年6月頃,同学会誌『フランス語学研究』に掲載される予定である。 その後,フランス語,スペイン語においても複数の総称文形式の使い分けは,ほぼ英語と同様であることが確認できつつある。フランス語においては,定複数形,定単数形,不定単数形,不定複数形の4形式があり,定複数形が英語の無冠詞複数形と同様もっとも普通の形(無標の形式)とされており,幼児の持つデフォルト的認知能力を反映していると考えられる。定冠詞の使い方は英語もフランス語も同様であるのに,なぜフランス語ではここで定冠詞を使い,英語では使わないのか。また,英語には不定複数の冠詞がないため,不定複数形は無冠詞複数形と区別できない。逆に言えば,フランス語には英語にない形式により意味の区別がそれだけ細かくできるのにも関わらず,フランス語の定複数形は英語の無冠詞複数形と同様にアバウトでどのような読みも許す。このような事実も「認知能力の複合性仮説」から説明できるという見通しを得ている。また,英語にない不定複数形の用法は非常に興味深く,量化という大人の認知能力を反映していると考えられ,その有標性(特殊性)が際立っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランス語学会を通じて,フランス語研究者との情報交換が可能となり,フランス語との比較研究は当初計画以上に進んでいる。その一方で,日本語は冠詞を持たないため,総称文が一定の形式に収束せず,詳細な記述には至らず,英語等の他言語との比較による推測にとどまっている。 ただし,総称文はそれ専用の言語形式を持たないという意味では,英語もフランス語も日本語と同様であり,定冠詞や不定冠詞の使い方も本来の典型的な用法から逸脱していると考えられる。そこが総称文の言語学的分析が難しいとされた要因の一つであり,最も基本的な総称文において,フランス語では定冠詞を用い,英語では用いないという違いにも現れている。すなわち,どの言語における総称文も,言語的な道具をの本来以外の用途に利用するという面を含んでおり,そのことが,当初の予想以上に日本語の分析が困難であることにもつながっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,平成29年度の実績に基づき,フランス語の不定複数形という英語にない形式に注目しつつ英語との比較を通じて「認知能力の複合性仮説」の有効性を主張する内容の学会発表を計画している(応募済み)。 また,現在までに得られた研究実績をさらに発展させ,研究期間全体の総括する論文を執筆する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注済みの図書の発行が予定より遅れたため納品されず,次年度に再発注することとなった。
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