平成28年度に発表した「認知能力の複合性仮説」の検証を英語以外の言語を対象にさらに進めた。 数量詞をはじめとする量化表現は4歳以降になって用いられる。英語総称文においては不定冠詞単数形は紛れもなく変項として解釈され,必然的に量化を伴う。フランス語には不定冠詞単数形のほかに不定冠詞複数形の総称文があるが,英語にはない。たとえば,Twins resemble each other in the smallest detail.という無冠詞複数形は漠然と双子全体を指すので,世界中の双子が同じような顔をしているという現実とは異なる解釈を許す。フランス語では不定冠詞複数形(des)を用いて,相互に似ている双子つまりペアを一つずつ取り出して数え上げるという操作(複数変更の量化)が可能であるため,現実を適切に記述することが可能である。 また,フランス語のデフォルト総称文は定冠詞複数形であり、英語の無冠詞複数形とは異なる。この違いは冠詞の対照研究において謎であったが,ドイツ語総称文に観察を広げることで,解決の見通しが得られた。ドイツ語においては,定冠詞複数形と無冠詞複数形が相互互換的に用いられるのである。すなわちデフォルト総称文においては、定冠詞の有無は特別な意味を持たないことになる。この視点から見ると、英語にはない定冠詞がフランス語に現れたとしても不思議ではない。「認知能力の複合性仮説」から推論される帰結は、「デフォルト的総称文は、言語能力が十分に発達せず、冠詞の使い分けが習得されていない時期から使用されている」ということになる。 以上のような研究成果を踏まえ,「認知能力の複合性仮説」を検証する内容を日本英語学会全国大会で発表した。発表内容は同学会のELS36(2019)にも掲載される予定である。
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