平成29年度は、日本語の複合語の音韻構造に関する研究を中心に行った。 従来の研究では、後半要素のアクセント型がいわゆる「中高型」の場合には、そのアクセントの型・位置が複合語全体に継承されるとされてきた(例:イソップ+ものが’たり→イソップものが’たり)。しかしながら、例えば「ゆで+たま’ご→ゆでた’まご」のように、後半要素のアクセント型が中高型であっても、アクセントの位置が変化する例もある。そこで、日本語の複合語のアクセントの計算においては、最後の2モーラを不可視にする(すなわち、計算から除外する)方式が妥当であることを論じた。 また、日本語の複合語のアクセントは基本的に後半要素に置かれるが、例えば「憲法改正(け’んぽうかいせい)」のように、前半要素にアクセントがあるものもある。このような一見例外的と思われるアクセントを持つ例では、前半要素が、後半要素が意味する行為等の対象物という関係で結びついていることが分かる。そこで、後半要素の項構造――すなわち、どのような意味役割を持つ要素を要求するかの指定――を基に複合語を分類した上で、前半要素が後半要素から独立してアクセントを持ちうるメカニズムを提案した。 この他に、複合語のアクセントと連濁の関係について無意味語実験を用いた考察をまとめ、アクセントと連濁が相補分布の(すなわち、アクセントがあれば連濁せず、連濁すればアクセントがなくなるという)関係にはなっていないことを明らかにした。 さらに、英語の派生語(特に「~する人」を表す接尾辞の付加された例)と屈折変化(特に形容詞の比較級・最上級の形式決定の原則)に関する自身の過去の研究の再検討にも取り組んだ。
|