平成30年度は、(前年度に取り組んだ)後半要素が漢語である複合語のアクセント型が非標準的になる例の分析を、後半要素が和語である例にも広げ、そこで働く原則を求めた。例えば「バイク買い取り」では、(通常の複合語アクセント規則を適用すれば、「バイクカ’イトリ」というアクセントが予測されるが、)「バ’イク買い取り」という変則的なアクセントになる。これは、「買い取り」自体が一種の複合語であり、その主要部である「取り」がアクセントの計算において支配下に取り込めるのは「買い」までだからである。それよりも前にある「バイク」の部分は、「買い取り」とは独立してアクセントが与えられることになる。よって、前半要素と後半要素がそれぞれ単独で持つアクセントが、複合語としてのアクセントとして具現される。このことを、統語理論において提唱されてきた「c統御」という概念を援用して、フォーマルに捉え直し、4つないし5つの要素から成る、より複雑な複合語のアクセント型も説明できることを示した。さらに、このc統御による複合語アクセントの決定のメカニズムは、英語の様々な複合語の強勢アクセントの配置・度合いの説明にも応用できることを論じた。 また、英語の通時的音変化に関する研究にも取り組み、いわゆる大母音推移(Great Vowel Shift)が生じたメカニズムと理由について試論としてまとめた。 3年間の研究期間において取り組んだテーマは、i)日英語の複合語のアクセントのメカニズム、ii)日本語の派生名詞の音韻的特徴、iii)日英語の混成語が標準よりも長くなる場合の特徴、iv)英語の「~する人/もの」を表す-orが選択される条件、v)英語の形容詞の比較級と最上級の形を決定する制約、vi)英語の歴史上の音変化について、と多岐にわたり、日英語を比較対照させながら語形成と音韻構造の関係を幅広く、かつ、詳細に論じることができた。
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